福岡グルメ小説“N氏の晩餐”/西中洲「安兵衛」のおでん

日曜の朝、早起きをしてパーカーにGパン、スニーカー姿で向かったのは海の中道海浜公園。

たまに来たくなる。そして、一直線に伸びるサイクリングロードをかっ飛ばす。

ごろんと芝生に寝そべって空を見上げる。

空ってこんなに広かったんだ・・・。

胸の中にたまっていたものが全部出ていく感じ。よおし、明日からまた頑張るぞと勇気が湧いてきた。

翌週、月曜から火曜にかけては思いのほか仕事がはかどった。

海の中道でのリフレッシュ効果だけではない。火曜は待ちに待った月に一度の「N氏の晩餐」の日だったから。

これまで西中洲のお店には何軒か連れて行ってもらったけど、まだ行けてなかったおでんの老舗を今夜は私からリクエスト。

渋い暖簾がかかった入り口の戸を引くと左手に大きなカウンター、右手には6人掛けのテーブルが3つ並んでいる。カウンターの一番奥にN氏が座っていて大将と女将さんとにこやかに語らっている。

生ビールで乾杯して、N氏が最初に頼んだのはスジ。

おでんといえばスジよね!と思いながら待つこと5分。

スジ登場。

「・・・ってこれがスジ!? どうみてもシチューでしょ!」

と突っ込みたくなるのをこらえつつ、ひとすすり。

思わず口をついた一言。

「や・さ・し・い」。

胃の中がほんわりと暖かくなる。

添えてあるホワイトペッパーを一振りすると洋風に、七味だと和風になるのが不思議。だけどどちらも美味しい。

飲み物は芋の水割りへ。そして、おでん登場。取り皿にもおでんの出汁が張ってあるのが憎い。

大根、卵、こんにゃく、いわしのつみれ、ロールキャベツ、飛竜頭(がんも)。

甘みが効いた九州風とは違って、きりりと締まった関東風の出汁が浸み込んだおでんが濃い目に割られた焼酎に実に合う。

続いては、シイタケ、糸こんにゃく、ブロッコリーにワカメ。

ワカメってこんなに瑞々しいの!?とびっくりするくらいの風味と歯ごたえ。絶妙の火の通し加減。煮込むだけがおでんじゃないんだ・・・って新たな発見。

おでんの締めは湯葉。

つるっと入って、出汁と一緒に喉の奥に滑り落ちていく快感。言葉が出ない・・・。

そしてお新香。見るからに手がかかっている。

かぼちゃ、コンニャク、パプリカといった変わり種から大根の皮を細かく千切りにして鰹節をかけたものまで。これは芸術品の域だわ。

「でも何でこんなに落ち着くんだろう。たしかに壁もテーブルも木がたくさん使われていて、でもそれだけじゃないような・・・」

無意識にそんな言葉が口をついて出てきた。そのとき、N氏は静かに微笑んで人差し指を上に向けた。

「ああ、、、なるほど!」

見上げると、天井まで木目鮮やかな木の板で覆われている。しかもテーブル席の上は水平に、カウンター席の上は若干角度をつけて屋根型に組まれている。

N氏いわく「いい店かどうかは天井を見ればわかる」とのこと。

きめ細やかな料理と空間構成。老舗の味わいに敬意を表して、ラスト一杯の水割りのグラスをカチンと合わせた。

※取材コーディネート:有限会社フィールドワーク

※情報は2016.10.27時点のものです

安兵衛

住所福岡市中央区西中洲2-17
TEL092-741-9295

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AKASAKA BOY

謎のライター

1978年福岡市赤坂生まれ。福岡の街の魅力を小説形式で発信中☆

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