九州紀行小説 “Q子の休日” vol.1/福岡県筑後市「筑後広域公園のクスノキ林」

6歳年下の彼氏・ミツグくんはフリーライター。中学卒業と同時にバックパックを担いで海外へ。8年にわたる放浪の末に帰国したのが2年前。帰国するや、生まれ育った福岡をはじめ九州の風景や文化、歴史にたちまち魅せられて、得意のカメラと文才を活かして情報誌や情報サイトに紀行文を掲載するようになった。流行や固定観念にとらわれないその独自の切り口が評判で、地元だけでなく在京の雑誌やサイトからの寄稿依頼が引きも切らない売れっ子ライターになっている。

天神の百貨店に勤める私は、たまに気分転換したいとき、休みの日を合わせてミツグくんの取材にお供させてもらっている。

今回の旅は博多駅で待ち合わせ。ミツグくんから渡された切符には「筑後船小屋」の文字が。私にとっては初めての場所。どんなところなんだろう。

久しぶりの新幹線。ホームのアナウンスの響きも在来線より1オクターブ高くて(あくまで個人的な感想)、“旅感”が半端ないよね。

各駅停車の「つばめ」に乗り込む。

さすがに新幹線は早い。新鳥栖、久留米をあっというまに通り過ぎ、わずか30分たらずで目的地・筑後船小屋に到着。

駅前にそそり立つのは九州芸文館。「お決まり」には興味ないミツグくんは外観の写真を2,3枚撮っただけで素通り。アート好きの私としては今度一人でゆっくり来てみたい。

途方もなく広い公園の芝生の上をずんずん歩いていくミツグくんを息を切らしながら追っていく私。ミツグくんは取材モードになると私が見えなくなるのだ。

ミツグくんが足を止めたのは、公園のど真ん中に突如現れた神社。一歩足を踏み入れると、大きな木がたくさん立っていて、公園の中に神社があるんじゃなくて、神社を囲むように公園がつくられたんだという気になる。

木の枝ぶりを見ているだけで楽しい。なんだかアートな感じ。

小高い丘があったので上ってみると、川の土手だった。大きな川が流れている。風景が一気に昔にタイムスリップしたみたい。物知りのミツグくんによると、この流れは矢部川で、福岡県内に4本しかない一級河川の一つなのだそうだ。

その大きな川に赤いアーチ形の橋が架かっていて、もう雰囲気満点。ミツグくんのカメラのシャッター音が止まらない。

橋の上からの景色は最高。おじさんが一人釣りをしている。太公望ってやつかしら。優雅だなあ。

見下ろすと水が澄みわたっている。そして川の堤に沿って桜の木が並んでいる。春の日差しを受けて輝く満開の桜が目に浮かぶよう。

一人でさっさと歩いていくミツグくんの背中を必死に追って、気づいたら林の中に立っていた。

さっきの神社に立っていたのと同じような木、それもかなり大きなものが無数に広がっている。

「クスノキだよ」とミツグくんが言う。「クスノキは英語ではcamphor tree。カンフル剤の“カンフル”だね。クスノキのエキスを樟脳(しょうのう)といって防虫剤や薬品になるんだ。まさにこの林の中は体が元気になるエキス全開だよ」

年下彼氏の博識ぶりに感心。そして“camphor tree”の発音が上手(さすが海外長いだけあるわ)。

あまりにも空気が美味しくて、何度も深呼吸をくりかえす。

見上げるとそこにもアートな模様が。クスノキの枝葉が織りなす不思議な造形と空の青さを目に焼き付けて、次なる取材場所へ移動だ。筑後市って初めて来たけど、なんだか興味深い出会いがたくさんありそう!

<九州紀行小説 “Q子の休日” vol.2/福岡県筑後市「船小屋温泉郷の極上うなぎめし」につづく>

【参考サイト】

■船小屋温泉郷公式ウェブサイト

http://www.funagoya.org/

■筑後市公式ホームページ「キラリ!筑後遺産」

http://www.city.chikugo.lg.jp/kankou/_1070.html

※情報は2016.10.31時点のものです

AKASAKA BOY

謎のライター

1978年福岡市赤坂生まれ。福岡の街の魅力を小説形式で発信中☆

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