九州紀行小説 “Q子の休日” vol.2/福岡県筑後市「船小屋温泉郷の極上うなぎめし」

矢部川のほとりに旅館がいくつか立っているのが見えて、温泉街の方へと足を向ける。

かつてはけっこう栄えていたようだが、今は旅館も数軒になっているみたい。それでもどことなくしっとりとした風情が旅情をそそる。

そんなことを思いながらボーイフレンドでフリーライターのミツグくんと肩を並べて歩いていると、まさに旅情をそそる店名のお食事処を発見。今度はぜひ夜に訪れて、旅路の果てに行きついてみたいものだ。

ちょっと開けたと思ったら、そこは公園だった。「船小屋鉱泉源公園」というプレートに並んで、「雀地獄」というおどろおどろしい名前の案内板が掲げてある。

これが源泉だと知られていなかった時代、雀や虫がこの付近でバタバタと落ちて死ぬのを見た住民が、神や霊験のしわざだと恐れおののいて「雀地獄」という名前をつけたのだそう。

源泉が湧き上がっているが、なんとなく手が出ず、見るだけにとどめる。

雀地獄のすぐそばに、レトロな建物発見。しかも「船小屋鉱泉場」「日本一の含炭酸泉」という何とも趣のある看板が。

どうやら水くみ場になっているみたい。

置いてあったコップに蛇口から鉱泉を注いで一口。

興味津々な顔のミツグくんのカメラのファインダーがアップで私の顔に向けられる。

「うぇっ!!!!!」

思いのほか冷たかったのと、何といってもその味にビックリ仰天。

“鉄さびのサイダー”。それ以外、例えようがない味。これは間違いなく効能があるはずだわ。

ミツグくんは、思いのほかいいショットが取れたようでご満悦な様子で、すぐわきに供えてあるお地蔵さんをパシャパシャ。

案内板によると、この鉱泉を掘る際に犠牲となった工夫さんたちを祀る薬師堂とのこと。明治時代だと今と違って機械もなくて人の手で掘ったんだろうから、文字通り命がけの作業だったに違いない。

鉱泉場を出てしばらく歩いていると、暖簾に「鰻」の文字が光っているお店発見。立て看板には「高級活鰻焼いてます」の文字が。

美食を探りあてる嗅覚も人並み外れているミツグくん、躊躇なく突入。私も遅れまいと後を追って暖簾をくぐる。

メニューの一番上に書いてあった「うなぎめし」を注文。カウンター7、8席と小上がりのテーブル席2卓のみのこじんまりとしたお店で、ご夫婦で切り盛りされている。年代物の水屋が目に入ったので、長く商売されているのか尋ねてみると、創業60年を超える地元でも有数の老舗だそう。

私たちに背を向けて焼き台に立った店主が取り出したのは、腹を割かれた生の鰻。相当活きがいいのだろう黒い皮と白い身のコントラストが鮮やかで蛍光灯の光があたってキラキラ輝いている。それをドーンと焼き台の網の上に載せる。

「生から焼くんですか!?」

そんな言葉が思わず口をついて出た。

店主が半身振り返って、にやりと笑い、静かに頷いた。

箸を上手に使って何度もひっくり返しながら焼いていく。最後にたれをつけてひと焼したものを大胆に切ってご飯の上にオン。

外側がパリッと焼けてて、それでいて中はふんわり。

「こんなに身が厚くてホクホクの鰻は初めてです!」

そう言うと店主は

「裂きたて、焼きたてだからね」

とニヤリ。不敵な笑みを浮かべた。

「串打ち三年、裂き八年、焼きは一生。とはよく言ったものだね。いいもの見せてもらったよ。今度来たときは(並)じゃなくて(上)を頼もうぜ」。

店を出て興奮気味に語るミツグくんの言葉に私は大きく頷いた。

彼方を見ると鉱泉場の屋根上の風見鶏が気持ちよさそうに川風に揺れていた。 

<九州紀行小説 “Q子の休日” vol.3/福岡県筑後市「羽犬塚の羽犬伝説」につづく>

【参考サイト】

■船小屋温泉郷公式ウェブサイト

http://www.funagoya.org/

■筑後市公式ホームページ「キラリ!筑後遺産」

http://www.city.chikugo.lg.jp/kankou/_1070.html

 

※情報は2016.11.1時点のものです

AKASAKA BOY

謎のライター

1978年福岡市赤坂生まれ。福岡の街の魅力を小説形式で発信中☆

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