失恋した人が自殺しようとした場合、その人を振った相手は悪なのか

博多駅の屋上で飛び降り未遂騒動がありました。

そのとき私は駅ビルの丸善にいたのですが、騒動を知り博多口に出ると、膨大な数の警察車両と野次馬で騒然としていました。見上げると、屋上から自殺志願者が足をぷらぷらさせています。飛び降りようとしているのです。その光景に、血の気がさっと引きました。

というのもこの騒動の少し前に、ある青年を失恋させたばかりだったのです。その直後の自殺未遂騒動です。まさかあの青年が失意のあまり思い飛び降りを・・・とうぬぼれた邪推をしてしまいました。結局、騒動を起こした者と失意の青年は別人だったのですが、この騒動を通し、ふと、次のような疑問を抱いたのです。

 

「失恋した人が自殺しようとした場合、その人を振った相手は悪なのか。」

 

多くの人に恋愛経験があります。それが経験になるということは、それまでに振るか振られるかどちらかを経験しているということです。幾つかの例外を除いて、振るか振られるかの二択であるのに、失恋の焦点はどうも振られた人にあてられます。誰かが失恋したときも、同情や憐憫の気持ちで、振られた人の心の傷を癒そうとします。ですが、失恋させた相手、つまり振った相手を思い遣ることはあまりありません。私たちの心の中で、誰かを失恋させた人は、どことなく加害者のような存在ではないでしょうか。人を振った人は、果たして悪なのでしょうか。

 

今回の私の例で考えてみましょう。

その青年に、私は友愛以外の情を持ち合わせていませんでした。知人として幸せになればいいなと思うくらいです。なので、付き合ってほしいと言われたときに、私は徹底的に拒絶しました。強い拒絶は私の誠意です。私は彼を好きじゃないし、私の性格上これからも好きにはならないからです。なので、付き合う意思は無いと、明確に説明しました。

強い拒絶に少し苛立った様子の青年は、それでは自分の何が問題なのかと聞いてきました。違うのです。彼の問題ではないのです。私の問題なのです。私が誰をどのような理由で好きになるかは、常に私の問題であり、自由であり、絶対不可侵領域です。彼の問題ではなく、彼が触れられない世界の話なので、どうしようもないということを説明しました。

すると青年は語気を強めて、ではどうしろと言うのかと聞きました。それは彼が決断すべき問題です。好きになるのは個人の自由なように、どのような決着をつけるかも個人の自由です。一方的に好きでいるのか、新しい人を好きになってみるのか、無理に忘れようとするのか。何をどう選択するかはその人の人生観によって変わると思います。私が彼を好きじゃない真実は変わりませんが、その真実を受けて、どういう決断をするかは彼の人生の問題です。私に頼らず、事実を整理して自分で考えるべきだと説明しました。

 

このように、私は青年に対して懇々と説明を続けました。

時間も体力も消耗しましたが、一種の儀式のようだと思い、丁寧に対応しました。しかし、私の努力は報われませんでした。彼はとうとう感情的になり、「君は普通じゃない」と言いだしました。溜息が出ました。私にとって「普通じゃない」は褒め言葉です。それをガチガチの悪口として投げつけられると、さすがに胸が痛みます。これ以上はどうしようもありません。私はよろよろと立ち上がり、痛む胸と共に、無言でひとり店を出ました。

 

このような経緯で、私は青年を失恋させました。失恋した彼の胸も痛むでしょうが、失恋させた私も辛いものです。思うに、不成立の恋愛は、不幸な交通事故です。疲れて面倒くさくて胸が痛む事故です。恋愛においては、振った人も被害者なのです。

 

太宰治は「恋愛は、チャンスではないと思う。私はそれを意志だと思う。」と言いました。人生は短い。その短い人生の中で、好かれたからという理由で好きじゃない人と付き合うということは、自分の幸せと時間を犠牲にすることです。好きじゃない人と付き合っていたら、死ぬ前にきっと後悔します。

死ぬ前に誰に会いたいのか。考えてみましょう。情で誰かと付き合えば、自分の感情を抑えて相手の欲望を満たすだけで、誰も幸せになりません。だから私たちは、相手を振るのです。自分の意志で、自分の幸せの為に振るのです。誰かを失恋させることで、罪悪感を抱く必要は全くありません。それはあなた自身が自分を大切にしたいという意志のあらわれなのですから。

 

※情報は2016.11.7時点のものです

カミーユ綾香

北九州市出身。在日韓国人と中国残留孤児の多く住む多国籍な街で育つ。 警固インターナショナルの代表として、十数言語による語学スクールとインバウンド支援の多言語ウェブサイト制作会社を運営する一方、難病の重症筋無力症とパンセクシュアルというセクシュアリティの当事者として、様々なマイノリティの生きやすい社会を目指して精力的に活動中。http://www.kego-international.com/

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