福岡グルメ小説“N氏の晩餐”/下川端町・ホテルオークラ福岡「山里」で新春懐石ランチ

「一年の計は元旦にあり」

両親が京都へ年越し旅行に出かけたので、この年末年始は帰省なし。自宅で一人気ままに過ごすことになった。

大みそか、ニュースの天気予報を見て一念発起。2017年元旦は午前6時に起床。そして、ジャージを重ね着して、靴箱の奥に仕舞っていたジョギングシューズを引っ張り出し、一路大濠公園へ。

初日の出を見るのは何年ぶりだろうか。小さいころ佐賀の山奥の祖父母の家から眺めた初日の出。大学時代にスペースワールドのカウントダウンを見に行った帰りに国道のドライブインから見た初日の出。あのときの同級生たちはいまどうしてるだろう…。

そんなことを考えているうちに大濠公園に到着。7時をすぎて東の空がうっすらと明るくなってきている。しばらく公園内をうろうろしていると、中ノ島にひときわ人が集まっているポイントを発見。初日の出ベストビュースポットに違いない。

年齢も服装もてんでばらばらの“初日の出観測隊”30数名の一員として待つこと20分。

池の彼方から朝陽がゆっくりと顔を出し、水面に光の道ができる。

スマホでパシャリ。

さっそく、両親と友だちに画像を添えて新年のご挨拶メッセージを送信。

そして昨年一年間、大変お世話になったあのお方にも…。

さっそく返信あり。嬉しいことに、ご都合がよろしければ正月三日にランチいかがでしょうか、とのお誘いつき。もちろんOK。ご都合あわせますとも。

待ち合わせ場所は、下川端町の高級ホテルのロビー。

地下から上がってきた私と正面玄関から入ってきたN氏。ぴったりロビーの中央で向き合い、新年のご挨拶。N氏のエスコートで2階へ。

「お待ちしておりました」と受付で出迎えられ、コートを預けて中へ。たくさん並んだテーブルはほぼ満席状態。お正月のせいだろう二世代、三世代の家族連れが目につく。

まずはビールで乾杯。前菜の皿が置かれるやN氏の解説が入る。

懐石では“先付(さきづけ)”ないしは“八寸”と呼ばれ、海の幸、山の幸の酒肴が少しずつ盛り込まれる。本来 “懐石”とは、修行僧が空腹を紛らわすために手頃な石を温めて懐に入れたことを指した言葉。時代が下って、室町から安土桃山時代に茶の湯が盛んになると、お茶を供する前に軽い食事を出すようになり、小腹を満たすことに掛けてその食事を“懐石”と呼んだそう。江戸後期以降は一つの食事形式として発展。献立や盛り付けは時代に合った形に変化したが、懐石には茶の湯の精神、すなわち“おもてなしの心”や“自然や季節をいつくしむ気持ち”が依然として含まれている・・・。

なるほど、納得。思わずうなってしまう。知って食べるのと、知らないで食べるのは美味しさが違うような気がするのは気のせいだろうか。

続いてお椀。

ひと口すすると鰹節の濃厚なコクと風味が口いっぱいに広がる。一滴の脂も浮いていない美しさ。これぞ和食の神髄。

お造りに合わせるのはもちろん日本酒。

この時期限定という樽酒が“寿”の焼き印の入った枡に入って登場。お正月の雰囲気満点だ。

酒樽のふたを割る“鏡開き”は幸運や健康を祈願する習わし。“鏡”とは丸くて平べったい形をした酒樽のふたの別名で、末広がりの意味を込めて、“割る”ではなく“開く”。宴会の最後に“おわり”ではなく“おひらき”というように・・・。

そう言いながらN氏は枡酒に添えられた豆皿から塩を一つまみして枡の角にのせた。

私も真似してやってみる。枡の角に唇をつけて、くいっと口の中に流し込むと、塩が酒の旨味と甘みを引き出し、そして最後には清々しい木の香りが鼻に抜ける。なんとも粋な気分。

焼き物は鰤(ブリ)。細かく叩かれた真っ白な長芋が上にかかっている。脇に添えられた金柑の甘露煮が色鮮やかだ。

成長に伴い名前が変わる出世魚。北部九州では大きさによってヤズ、ハマチ、ブリと呼び分けるが、漁場に恵まれ天然物が日常的に手に入るためか、養殖のブリはどんなに大きくなってもハマチとしか呼ばない地域もある。博多では、正月の雑煮に欠かせない具材で、「よか嫁ごぶり」にちなんで結婚した年末にお嫁さんの実家へ送る習わしもある。博多で祝いの魚といえば、何はさておいてもこの魚・・・。

そんなN氏の解説を聞きながら、すべての料理に、繊細で深い味わいとともに、健康や幸福を祈るメッセージが込められていることに感動を覚える。

続いて供されたのは、色鮮やかな炊合せ。

かぶに筍、絹さやに京野菜の金時人参と堀川牛蒡。一つ一つの具材を別々に煮て、最後に一つの器に盛り合わせるので“炊合せ”と呼ぶそう。すべての具材を一緒に煮る“煮物”とは違うわけだ。手間がかかっている。

食事はジャコ御飯に味噌汁、お新香。

新春早々、一皿一皿に丁寧な仕事が施された華やかな御膳をいただいて懐がほっこり温かくなった。

「今年もよろしくお願いします」

かしこまってペコリと頭を下げた私に、柔らかな笑みを浮かべて応じるN氏。今年もたくさんの美味しい出会いがありますように…。元旦の初日の出を思い浮かべながら、私は心の中でそっとつぶやいた。

 

※情報は2017.1.11時点のものです

ホテルオークラ福岡

住所福岡市博多区下川端町3-2
TEL092-262-1111(代表)
URLhttp://www.fuk.hotelokura.co.jp/

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