消える村に生きる女性の物語 トキヲイキル舞台「ハコイリムスメのすゝめ」

 福岡市を拠点に歌と芝居を中心に活動する女性エンターテインメントグループ「トキヲイキル」の節目となる第5回本公演「ハコイリムスメのすゝめ」が9月11日に開幕しました。客演とダブルキャストを含めた出演者17人は全員女性。15日(日)まで全9公演あります。早速、初日の舞台を見てきました。

公演ビジュアル

 会場は福岡市博多区の「ぽんプラザホール」。100席ほどある会場はほぼ満席の状態、開演前から期待が高まります。

 物語の舞台は長野県の架空の村「八合(はこ)村」。ダム建設による立ち退きが迫る中、最後まで残った住人は女性8人だけという限界集落。そんな住人たちと東京から村を取材に来たジャーナリストを軸に物語が展開します。

 まだ公演期間がありますので詳しいストーリーはここには書けませんが、笑いあり涙ありの物語の中で観客は2度裏切られます。最初の裏切りは突然やってきます。「え?なんで?」と疑問が湧きますが、最終盤で再び裏切られることで疑問は解消され、観劇後はどこか温かい気持ちになるストーリーでした。

序盤のワンシーン

序盤のワンシーン

 今夏、トキヲイキルでは今回主演の桃咲まゆさんに加え岸田麻佑さん、大庭彩歌さん、原直子さんの4人が東京や福岡の劇団で「武者修行」をしてきました。

 特に桃咲さんはアニメや漫画の世界を演じる「2.5次元劇」にも出演しました。今回の舞台では、その成果を感じることも楽しみの一つと言えるでしょう。出演するトキヲイキルメンバー6人、劇団トキヲイキル4人の演技がそれぞれの歩幅は違っても着実に進化していることを感じます。

隣町の役場で働く前園美郷(大庭彩歌)(右)、三浦風月(天野あつ)(左)、三浦のアシスタント武田さおり(あわたかれん)(中)

隣町の役場で働く前園美郷(大庭彩歌・右)、三浦風月(天野なつ・左)、三浦のアシスタント武田さおり(あわたかれん・中)

 私が特に変化を感じたのは大庭さん。グループのステージ活動では中心的な存在でありながら、これまで「お芝居は苦手」と公言し、どこか吹っ切れない印象でした。今回の舞台では台詞や出番は多くはありませんが「一皮むけた」と感じました。本腰が入った、と言ってもいいでしょうか。
 もともとグループ内では歌の振り付けを担当、公演パンフレットを監修するほか趣味の粘土細工でも非凡な才能をみせるなどクリエーティブな大庭さん。今回の舞台が役者として本当の出発点となり、今後、長足の進歩を見せてくれるはずです。

常に妹の立浪あさり(藤松宙愛)(左)に寄り添う姉史乃(岸田麻佑)

常に妹の立浪あさり(藤松宙愛・左)に寄り添う姉史乃(岸田麻佑)

 グループ最年少の藤松宙愛さんの存在感ある演技、出番も台詞も多いキーパーソンのジャーナリストを演じきった天野なつさん(劇団トキヲイキル)、ツアー客3人組の演技を引っ張る井上未優さん(同)、自らのプロデュース舞台を来月開催することが発表されたばかりで俳優としての幅がさらに広がりそうなcheluさん(同)、また今回が初舞台となる元HKT48の山本茉央さん(客演)、福岡ソフトバンクホークスの2、3軍の本拠地「タマホームスタジアム筑後」で今シーズンのスタジアムDJを務めるあわたかれんさん(同)など、レギュラー陣にも客演陣にも多くの見どころがあります。

謝罪する磯貝リリコ  (井上未優)(後列中)と寄り添う松波優姫(山本茉央)と小倉佳菜美( 小田樹)

謝罪する磯貝リリコ (井上未優・後列中)と寄り添う松波優姫(山本茉央・後列左から2人目)と小倉佳菜美(小田樹・後列右から2人目)

 さて、今回の舞台のキーワードは、「我慢して頭を下げろ」という意味だと劇中で説明される長野県の方言「きぶらんとおかたしていけ」です。
 都(みやこ)の都合で振り回される八合村。普段は丸の内でセクハラやパワハラに耐えながら仕事をしているツアー客。母親の都合で置き去りにされた娘。「きぶらんとおかたしていけ」とばかりに理不尽に耐え日々を過ごしています。

 さらに、ダムでなくなる村に最後まで残る住人と母と再会したい娘は「忘却」への恐れと抵抗を表しているのかもしれません。「理不尽」と「忘却」は今回の物語の底流にあるテーマだと感じました。

物語の終盤、素直な思いを吐露する江夏水面(桃咲まゆ)と三浦風月(天野なつ)

物語の終盤、素直な思いを吐露する江夏水面(桃咲まゆ・左)と三浦風月(天野なつ)

 この舞台はダム建設への賛否を問いかける内容ではありません。それでも私の足元の九州をみれば、川辺川ダム計画に振り回され限界集落を抱える熊本県五木村があります。また、ドキュメンタリー映画「ほたるの川のまもりびと」で知られる長崎県の石木ダム事業では、いまだに住民と行政の対立が続いています。決して「架空の村」の話ではない現実があります。

 私自身が直接取材したことはありませんので、ここでダム建設への賛否を含めて軽々なことは言えません。しかし賛否にかかわらず、そこで生活し、思い出もすべてそこにある人たちに少しでも思いを馳せる大切さを八合村の住人たちは優しく訴えかけている気がしてなりませんでした。

最終盤、村民の思いを伝えるシーン2

最終盤、村民の思いを伝えるシーン

 公演は15日まで。すでに完売となっている公演もありますが、キャンセルで当日券がでることもあります。エンターテインメントとして楽しむのもよし。物語を深読みし私とは全く違う感想を持つのもよし。

 一服の清涼剤として、心優しい八合村の住人たちに会いに行ってみませんか。

 

トキヲイキル第5回本公演「ハコイリムスメのすゝめ」
期間:9月11日(水)~15日(日)
会場:ぽんプラザホール(福岡市博多区祇園町8-3)
原作・脚本:安藤亮司(劇団ウルトラマンション主宰)
音楽・演出:柏原収史
料金:前売りS席4,500円、一般席4,000円(当日各500円増、平日昼各500円引) ※税込み
問い合わせ:ジョブ・ネット
電話:092-406-7100

※情報は2019.9.12時点のものです

トキヲイキル第5回本公演「ハコイリムスメのすゝめ」

住所福岡市博多区祇園町8-3 ぽんプラザホール
TEL092-406-7100(ジョブ・ネット)
URLhttps://www.tokiwoikiru.jp/107191.html

しげむら

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