佐賀・名尾農園 全国初の「凍熟柿」が できるまで

◎ふっくらした柿を、思い切って冷凍に

――前回は、ここ名尾地区では300年以上前から、紙漉(す)きを行なっていたこと、和紙のはざかい期には、盆地ならではの寒暖の差が大きな気候を利用して、干し柿が作られてきたことを伺いました。
昔は集落をあげて行なわれてきた和紙と柿ですが、いまではこちらの「名尾手すき和紙(名尾農園)」さん一軒のみになっています。
※前編インタビュー記事はこちら

(名尾農園 谷口文代さん・以下同)和紙の仕事をしながら11月、12月は柿のために(和紙の)工房は休んで……という生活のリズムが、代々、受け継がれてきています。
干し柿はお正月用に出荷するので、12月が忙しいんですが、近頃は温暖化の影響で、季節の移り変わりも変わってきています。

心を込めて、皮むきされていると、〝柿のたたずまい〟からわかります。(写真提供 名尾農園)

心を込めて、皮むきされていると、〝柿のたたずまい〟からわかります。(写真提供 名尾農園)

――こちらの柿は、見るからにおいしそうですが、ほかの柿とどこが違うのでしょうか。

皮は弾力がありますが、中はとろあまで、やわらかいのが特徴です。 長い間、九州管内で市場に出荷して、九州内で消費されていましたが、「もっと全国にお届けできたらいいな……」という思いがありました。

――東京あたりの関東・東北では、こんなにふっくらした干し柿は見たことがありません。干し柿というともっと硬くて、大きさもこちらの柿より小さいです。

佐賀の人にはこれが〝ふつう〟なんですよ(笑)。大きさについては、関東にもいろんな種類の柿がありますけれども、要は気候ですね。関東・東北あたりは、硬い干し柿が多いんです。これは北日本方面が寒さが厳しいので、干し柿もドライフルーツ状に乾いてくれるせいです……。

名尾農園の奥様・谷口文代さん。肥前名尾和紙は、名尾手すき和紙(株)に社名を変更しました。

名尾農園の奥様・谷口文代さん。肥前名尾和紙は、名尾手すき和紙(株)に社名を変更しました。

――東京の干し柿は〝ドライフルーツ〟ですか……。そう言われると、見た目も味も、その通りだなと思います。東京のスーパーには、生鮮食料品のドライフルーツのコーナーに、通年、茨城産の干し芋がよく売られています。

干しいもは、九州では、五島列島か鹿児島あたりぐらい、でしょうか。あと、千葉の落花生! あちらの落花生は最高においしいですね(笑)。

うちが全国向けに通販を始めた頃は、干し柿をドライフルーツのような感覚で、みなさん、考えていらっしゃってて……でも、うちの柿はやわらかいので、輸送の条件で、いい状態でお客さんの手元に届かなかったり、届け先の気候に合わなかったりと、うまくいかないことが色々、ありまして。それで考えた末、〝冷凍〟に踏み切りました。

 

◎干し柿の中に羊羹(ようかん)!?

――生のやわらかいままでは、輸送途中に破裂したり……?

そうですね。こちらの柿のよいところが、かえって悪い結果になった例もありまして、何とかできないかと考えて、「やっぱり冷凍しよう」と……。

――そこで誕生したのが、佐賀市の『いいモノさがし』にも認定されている「ゆうじろうの凍熟(とうじゅく)柿」ということですね。ゆうじろうというのは、どこから……?

主人の名前なんです(笑)。

――お餅入りって珍しいでしょう?

はい。お餅入りは、おそらくうちが初めてだと思います。冷凍に踏み切ったのも、うちが初めて。

――すごい挑戦ですねえ。

干し柿は毎年10万個ぐらい作りますが、その中から数万個を厳選して、いいものだけを、プレーンタイプとお餅入りの凍熟柿に仕立てます。最初はプレーンだけでしたが、それだけではちょっと面白みがないので、「中に何かいれてみよう」と、いろいろ試してみたんです。羊羹とか……。

――柿に羊羹!?

でも、やっぱりお餅が一番よかったので、お餅入りにしました。

▲ゆうじろうの「凍熟柿」もち入りタイプ(佐賀市『いいモノさがし』認定品)
3個入り1404円(本体価格1300円)+クール宅急便冷凍送料1080円~。写真提供:名尾農園

 

◎柿は冷凍にすると、より甘く、美味しくなる

――東京のご年配の方にお餅入りの凍熟柿をお送りしたら、びっくりするほど、喜ばれました。「こんな柿、見たことない」と言われました。

よかったです(笑)。おかげさまで、初めて召し上がる方は、「やわらかくて、おいしい!」と言ってくださいます。これは柿の種類もありますが、やっぱり気候の問題だと思うんですね。

――大事な柿を県外に出そうと決心されたのは、クール宅配便など、輸送技術が発達したからですか。

冷凍で出荷するという点では、もちろんそうですね。また、冷凍すると、柿は甘みが増しておいしくなります。

 

 ▲ゆうじろうの「凍熟柿」プレーンタイプ。3個セット 1188円(本体価格1100円)+送料1080円(クール宅急便冷凍)~。
写真提供:名尾農園

▲凍孰柿・プレーンタイプの断面図。外側の皮は弾力があり、中はとろあま。表面の白い粉は、甘みを引き出すためのヨビコと呼ばれるデンプン質の食品。
写真提供:名尾農園

――冷凍すると味が落ちる、のではなく……?

はい、冷凍したほうが逆においしいです(笑)。冷凍しすぎてもよくないんですが、確実に糖度はあがっています。

――冷凍したほうが、名尾の気候が育んだ自然な甘さが引き出されるとは面白いですね。凍熟柿は何個から通販できますか?

3個ずつがご自宅用、8個入りが贈答用というイメージで、プレーンとお餅入りの2種類作っています。かごに柿を入れて、パッケージがあって、うちの自家製の和紙で包装して送り出します。

――ぜいたくですね。

パッケージの和紙も柿も自家製

パッケージの和紙も柿も自家製

家庭用には3個入り、贈答用には8個入りを注文する方が多い

家庭用には3個入り、贈答用には8個入りを注文する方が多い

そのほかに、プレーン3個、お餅入り3個の計6個の詰め合わせ(箱入り)もあります。

――和紙を売られるルートと、柿の販路とは重なるものですか?

いまのところはそう重なってはいないです。やはり食品は、ほかの品とは違いますので。どんなに気をつけていても、輸送中に痛んでしまったり、事故が起きますし。

和紙と柿が重なった例では、たまたま、東京のお客様でレストランをなさってる方がいらして、デザート用のランチョンマットにうちの和紙を使って頂いていたところ、今夏はそのデザートに、うちの干し柿をトッピングして頂きました……。

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