「農業って面白い」アートの世界から農家へ転身した理由とは?

「農業はアートに通じます」。野菜農家の髙木智代さん(49歳)はそう語ります。大学で写真、アメリカで版画を学んだあと農業に飛び込みました。周りをマンションや住宅に囲まれた福岡市西区姪浜5丁目の畑で西洋野菜を中心に育てています。

日当たりの良い畑には数種類の野菜が行儀よく並んでいます

日当たりの良い畑には数種類の野菜が行儀よく並んでいます

年間40品目、少量多品目の野菜たちを育てる

髙木さんの野菜づくりの特徴は少量多品種です。畑にうかがった時もカーボロネロ、トレビス、エンダイヴ、チーマディラーパ、ディルなど、家庭ではあまり耳にしない名前の野菜が1畝(うね)ごとに植えられていました。

「年間40品目以上の野菜を育てます。トマトだけで10品目、ナスで5品目。普通の野菜農家より多いでしょうね」。隣のハウスには「牛の心臓」と呼ばれるハート型のトマトが実をつけていました。

野菜が違うと育て方も違います。多品目栽培は非効率ではないのでしょうか。そんな問いに「いろんな人と付き合うのが楽しいのと似ています。野菜にもいろいろ性格がありますから」と髙木さんは答えました。

 

最初は家庭菜園からスタートした

4人姉妹の末っ子。家は農家でしたが、中学3年生の時に父親が亡くなったため、田畑は親類に任せることに。髙木さんは九州産業大学で写真を、卒業後はニューヨークの美術学校で版画などを6年間学びました。留学中は国際色豊かな友人たちと各国の料理を作り合ったそうです。帰国後、働いていた英会話スクールが倒産してしまったころから、野菜栽培を始めました。つくったのはニューヨークで友人たちと食べたズッキーニやレタスなどです。

「最初は家庭菜園。自分が食べたい野菜を育てるためだったんです」。しかしそれが面白くなって本格的に取り組もうと思ったのが30歳のころ。面白くなった理由を「農業ってクリエイティブだから。自分で畑をデザインするのは楽しい。農業をやっているクリエーターも多いですよ」と語りました。

 

 なじみ薄い野菜を、キャッチフレーズでPR

野菜づくりが楽しくなっていくに従って、少しずつ畑の面積を増やしました。今では夏に50アール、冬に70アールを母と姉との3人で切り盛りしています。女性だけの農業ですが「男性が1回で運べるものを3回で運べばいいだけです。それにいまはトラクターなど機械もありますから」と気にしません。

ただ、規模が大きくなっても「自分の食べたい野菜、好きな野菜をつくる」という基本姿勢はずっと変わりません。

収穫した野菜の大半はJA福岡市の「博多じょうもんさん福重市場」やデパートに卸しています。一般になじみの薄い野菜たちですから、PRも大事。友人のクリエーターに依頼してズッキーニは「恋するズッキーニ」、ニンジンは「甘い誘惑」とキャッチフレーズを考案してもらいました。髙木さんも、こうしたらおいしく食べられるという手書きポップを売り場に置いて1、2週間ごとに入れ替えています。

 

心配な、若い人の野菜離れ。「まず親がおいしそうに食べて」


福岡市の農業委員、女性未来農業サポーター、福岡県女性農村アドバイザーをつとめる髙木さんは「若い人の野菜離れ」を心配しています。

保育園などでお母さんたちに食育の話をすることもありますが、大事にしているのは「子どもたちに野菜を無理に食べさせないで」ということ。「まずお母さんがニコニコとおいしそうに野菜を食べてほしい。すると子どもは自然と野菜好きになりますよ」とアドバイスしているそうです。

最近は漬物、トマトソース、セミドライのトマトなど加工品にも取り組んでいます。「今はまだちょこちょこですけど、いずれは本格的に」と夢を膨らませています。近隣の若手農家と「西洋野菜研究会」も結成しました。栽培方法などの情報交換は、参加者みんなの技術向上に役立っているそうです。

自分が好きな野菜をおいしく食べるために家庭菜園からスタートさせ、今も挑戦を続けている髙木さんの生き方は、小さく始めて大きく育てるという無理のない営農につながります。就農を志す女性たちにもきっと参考になるでしょう。

※情報は2017.12.22時点のものです

関連タグ

この記事もおすすめ