『幸せは身近なところに転がっている』万羽鶴完結編

【前回までのお話】

4年2組の子どもたちに訪れた突然の『事件』。クラスの人気者だった女児が転校することになった。仲間の突然の転校に落ち込む児童たち。それでもすぐに立ち直り、児童たちは「折り鶴を千ではなく万折る!」と折鶴を追っていく。

※前回の記事:1万羽まであと少し!折り鶴に強力な助っ人登場!

7月に入ります。1万羽までもうすぐです。
しかし、そんな子ども達に最後の試練が訪れるのです。それは、鶴を繋ぐ作業でした。

「あと少し!あと少し!」
と懸命に鶴を折っていった子ども達は
ついに1万羽達成することができました。

「やったー!」
「嬉しい!」
「イエーイ!」

と教室を歓喜が包みます。
それを鎮めるかのように私は
興奮する子ども達を手の合図で抑え座らせ、冷静な口調でこう言いました。

「1万羽達成おめでとう。あのさ、これどうやってもっていくの?」

子どもたちは
「あっ!」
と気付きました。

「そうだ!繋がないと!」
喜びも束の間、今度は繋ぐ作業が子ども達を待っていました。

鶴は針と糸で繋いでいきます。
家庭科は5年生からです。
まだ4年生の子ども達は、針を握ったことのない子がほとんどです。

私はできるだけ長い針を探しに行きました。子ども達が扱いやすいようにです。

鶴を50羽繋ぎ1本にします。これを5人班で協働して行います。
協力して1本を繋ぐ。
先生に報告する。
私は黒板に記録を書いていく。

私は班で競わせるようにしました。

1班が1本繋いだら
黒板の1班のところに「正」の字を書いていくようにしました。
他の班に負けないようにと、協力して頑張ろうとする班が多い中、
2班だけがケンカを始めました。

ケンカの理由は、誰が針を持つかということです。ゆう君とまさき君が、
「自分が針をもつ!」
と言い張り、ケンカをしています。

針を持っていますから私は目を離しません。
5人で順番にすればいいのに、自分がしたくて仕方ないのです。
同じ班の女の子は大人しい子ばかりだったので困っていました。
順番を守れない経験があり、順番を守ることの大切さを学べます。

他の班が記録を伸ばす中、2班はなかなか進みませんでした。

鶴を1本繋ぎ終えると、私に持って来ます。 
私は糸に輪を作り、教室の天井にあるフックにかけていきました。

1本繋ぐのにだいたい20分ほど時間がかかります。
鶴を折り直したり、頭と尾を綺麗に重ねたりするので時間がかかるのです。

そうして鶴を繋ぐ毎日が過ぎていきました。

7月中旬になり、放課後の学校に1本の電話が入ります。
それは、かなちゃんのお母さんからでした。
「先生、お久しぶりです。お世話になりました、かなの母です。
急なお願いで申し訳ないのですが、こちらの学校は来週個人懇談が午後にあり、午前中で学校が終わります。
かながみんなに会いたがっているので午後から連れて行ってもいいですか?」

私は、
「もちろんです!どうぞ連れて来てください。」
と答えました。

次の日の朝の会、子ども達に話しました。
「来週の水曜日、午後3時ごろスペシャルゲストがやってきます!」

子どもたちは直感でわかっていました。
「かなちゃんが来るんですね!」

「よし、それまでに万羽鶴を仕上げよう!!」
「うん、そうしよう。そして、39人揃った時に、万羽鶴が完成していたら、みんなで万羽鶴の出発式をしよう!」
私は子ども達にそう話しました。

それからというもの、子ども達は黙々と鶴を繋ぐ作業に取り掛かります。
人間の集中力というのはすごいです。子どもであっても同じです。
飽きてしまったり、問題が起こったり、解決しようとしたりを繰り返してきた4年2組の子ども達は、
正に今、はっきりとした共通目標が持てています。
そう、あの2班ももうケンカをしていません。

かなちゃんが帰ってくる日が来ました。
やるべき学習内容を終え、子ども達は鶴をどんどん繋いでいます。
この時繋いでいる鶴は、4月当初に折った鶴なので、折り方が実に雑でした。
折り方が違うのもしばしば見られました。
そういうのは全部折り直しです。
中休みも、昼休みも誰も遊びに行きません。鶴を繋ぎたくて仕方ないのです。

「かなちゃんのために。必ず全部繋いでしまう!間に合わせる!」
そんな空気が教室を包んでいました。
給食時間も早々と食べるのを終え、
早く食べ終わった子から数人で新しいグループを作り繋いでいきました。

掃除時間を終え、5時間目になりました。
5時間目が始まるのは午後2時15分です。
繋がないといけない鶴はあと10本になりました。
50羽を1本繋ぐのにで約20分。

しかし、折り直しが多いため、それ以上の時間がかかります。
どの班も無言で繋いでいきます。
8班全てが1本ずつ繋ぎ、
かなちゃんがやってくる午後3時まであと2本となりました。
時計は午後2時40分を回っています。

クラスの子ども達は、2つの班に全てを託し、
固唾を飲んでその状況を見守っています。
すると、1人の女の子が、黒板に万羽鶴の出発式のプログラムを書き出しました。

大きな字で、始めの言葉から終わりの言葉まで
その場で考えてプログラムを書いています。
後ろの黒板には、当時流行っていた曲で
クラスの学級歌として歌っていた
森山直太朗さんの「さくら」の歌詞を書いていく子も出ています。

そうしている中、残り2本の内の1本を7班が繋ぎ終えました。

残り1本です。

その1本を持っていたのは、あの2班です。
針を持っているのは、ゆう君です。
午後3時まであと5分。誰が言い出したのか、
教室にあと1本コールが鳴り響きます。

「あと1本!」

「あと1本!」

「あと1本!」

ゆう君の針を持っている指を見ると、ブルブル震えています。
鶴に上手く刺すことができません。

私は、
「静かに!」
と言いました。

かなちゃんと幼馴染のはるき君が廊下の窓から外の駐車場を見降ろしています。

「先生!かなちゃん家の車が来ました!!」

はるき君が叫びます。

駐車場を見ると、かなちゃん親子が車から降りています。
お母さん、かなちゃん、かなちゃんの妹、弟の4人です。

「わかった、座って。」
私は腕を組んで、2班が繋いでいる様子を見守ります。

もう喉から手が出るほど代わってやりたい気持ちが湧き起こっています。
しかし、これまで子ども達が中心となってしてきた活動です。
ここで代わらない。子ども達を信じ抜く。覚悟を決めます。

気の効くこうき君が廊下のアコーディオンカーテンを閉めました。
前述しましたが、オープンスペースの本校は
廊下の壁がなく隣りの教室と筒抜けで丸見えです。

こうき君は、かなちゃん親子が少しでも教室に入るのが遅くなるよう、
アコーディオンカーテンを閉めて時間稼ぎをしたのです。

残り5羽。

4羽。

・・・

3羽。

緊張感が教室を包み、静寂しきっています。

2羽。

・・・

1羽!

最後の1羽を繋いだ瞬間、
「よし!貸せ!」

私は2班から繋いだ鶴を受け取り、
素早く輪を作ると台に上がり、
天井からぶら下がっているフックに吊るしました。その瞬間!

「こんにちは。」

とかなちゃん一家が教室に入ってきました。

体全身に鳥肌が立ちました。
こんなことがあるなんて。
こんなタイミングがあるなんて。

子ども達は大歓声です。
これまでにない大きな大きな大歓声が起きました。

その瞬間のことを今でも昨日のことのように思い出せます。

私は、
「ああ、神様はいるんだな。」
と思えました。
一生懸命頑張っていると神様はちゃんといてくれて、
この上ないタイミングで奇跡をもたらせてくれる。

もし、かなちゃん一家が来る途中、
信号1個違っていたら、
もし、かなちゃん一家の誰かがトイレに立ち寄っていたら。

そのどれもがなく、誰にもコントロールできないタイミングで起きた出来事です。

私はこの時、子ども達に教えてもらいました。

『幸せは身近なところに転がっている』

ことを。

大きなことを達成することだけが幸せではない。
こんなに身近なところに幸福はある。
大学生だった私は3カ月で大きな財産を子ども達から教えてもらったのです。

それは、どこか懐かしい感覚でもありました。

万羽鶴の出発式が始まりました。

かなちゃんは教室の中心にいます。
みんなニコニコしています。
とっても嬉しそうです。

そして、真夏なのに、森山直太朗さんの「さくら」を39人みんなで歌いました。
声を出して泣いている子もたくさんいます。

子どもの純粋な気持ちに胸がキュンとなりました。
私も一緒に歌いました。

実に感動的な出発式でした。

それから3週間後、夏休みに長崎へ約束通り万羽鶴を届けます。
その時にもとんでもないエピソードがありますが、
それはまたいつの日にか、皆様に届けます。

余談です。万羽鶴の出発式の日、誰もかなちゃんに
「あの時、3000羽の鶴を送ってくれてありがとう。」
とは言いませんでした。

※情報は2018.6.15時点のものです

ヒデト☆ティーチャー

中学1年のころ、イジメ自殺問題をニュースで見て学校を変えたい!」と教師を志す。大学時、学校と社会をつなぐ教師になる!と決める。子ども達と一緒にみんなで同じ目標をもって、学習、活動をするのが大好き。現役の小学校教諭。高校、大学時代はラグビーに熱中。『ラグビーに受けた恩は、ラグビーに返す。』2019年ラグビーワールドカップ日本開催に向けて尽力している。

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