ナカムラケンタさん初の著書『生きるように働く』刊行記念トークをレポート☆

さる9月30日、福岡市東区箱崎のカフェ&ギャラリー・キューブリックにて、毎月10万人が閲覧する求人サイト「日本仕事百貨」の企画運営、東京・清澄白河に小さなまちをつくるプロジェクト「リトルトーキョー」や「しごとバー」の企画・デザイン監修、誰もが映画を上映できる仕組み「popcorn」の運営など幅広いジャンルで活躍するナカムラケンタさんの初の著書『生きるように働く』(ミシマ社)の刊行記念トークイベントが開催されました。

カフェ&ギャラリー・キューブリックの店主・大井実さんが聞き手となり、これからの「生き方」や「働き方」をテーマに熱いトークが繰り広げられた当日の様子をレポートします。

大井 カフェ&ギャラリー・キューブリックでのナカムラケンタさんのトークは4年ぶりとなります。前回はナカムラさんが運営するウェブメディア『日本仕事百貨』についてお話しいただきました。著書について伺う前に、まず『日本仕事百貨』について簡単にご紹介いただけますか?

ナカムラ 『日本仕事百貨』は2008年に自分一人で立ち上げた求人サイトです。一般の求人サイトと比べて、「勤務条件」よりも「どんな雰囲気の職場なのか」「どんな人が働いている職場なのか」を紹介することに力点を置いているところが特徴です。

大井 サイトを拝見すると、たくさんの写真と文章を用いて、その仕事の内容や職場が立地する地域の魅力が効果的に紹介されていますね。

ナカムラ 『日本仕事百貨』の立ち上げにあたっては、東京に本社を置き、日本各地に拠点を広げている不動産会社『東京R不動産』のサイトがとても参考になりました。物件の賃料・間取り・交通アクセスだけではなく、その物件の “特徴や個性” が写真や文章でわかりやすく紹介されています。当然、一つ一つの物件にメリット・デメリットがあるわけで、それらを踏まえたうえで、借り手がそこでの「住み方」に思いを巡らせることができるようになっています。そこからアイデアを得て、『日本仕事百貨』では職場の環境や経営者の理念などを丁寧に取材・編集して求人記事を作成し、サイトの読者が「働き方」や「生き方」をイメージしながら仕事が探せるよう工夫しています。

ナカムラケンタさん

ナカムラケンタさん

大井 それでは、このたびミシマ社から刊行された『生きるように働く』についてお話を伺いたいと思います。本書がナカムラさんにとって初めての著書となるわけですが、執筆にあたってのご苦労はありましたか?

ナカムラ ミシマ社という出版社は、 “持ち込み原稿を受け付けない” ことで知られています。すなわち同社からのオファーがないと自著を出版してもらうことができないんですね。三島さんとお会いする機会があり、さらにミシマ社のスタッフ求人を『日本仕事百貨』にて募集させていただき、その求人を通して採用された編集者さんが担当となってくださいました。

大井 順風満帆な滑り出し、といった感じですね。

ナカムラ ところが、出版のお話をいただいたのが今から5年以上前のこと。出版に至るまで5年もかかってしまったのです。

大井 ナカムラさんは『日本仕事百貨』で求人記事を執筆・編集するライターでもありエディターでもあるわけですから、文章を書くことは決して不得手というわけではないと思いますが、どうしてそんなに時間がかかったのですか?

ナカムラ 『日本仕事百貨』の求人記事は4000字程度ですが、一冊の本となると10万字を越える文章量になります。4000字であれば、全体像がはっきりと掴めるのですが、10万字となると書き進めていくうちに、以前書いた内容を忘れたり、時間の経過によって自分の思いが変わったり、という場面に直面します。自分が読んで面白くないような本にはしたくない、という思いが強くありましたので、書いてはボツに、書いてはボツに、を繰り返していた時期が長かったです。

大井 私も昨年、初めてとなる自著『ローカルブックストアである』を晶文社より出版したのですが、私の場合、原稿を書けたところから五月雨式に編集者に渡して、全体の構成を整えてもらいました。編集者の客観的な目で原稿を見てもらい、編集してもらうことで、自分でも思いもよらなかった構成になり、さすがプロだな、と思ったものです。ナカムラさんは執筆に行き詰まったとき、編集者の力を借りようとは思ったことはありませんでしたか?

ナカムラ 私はどちらかというと、自分が納得したうえで原稿を編集者へ渡したい、という思いが強くありました。ただ、大井さんがおっしゃるように、編集者の方々の物事を客観的に見る眼は、本当にすごいと思いますね。

大井 執筆するうえで、心がけていたことはありますか?

ナカムラ 今世の中に出回っているビジネス書、いわゆる “働き方の指南本” には、たいてい “正解” が備わっています。そうした、「こうすれば出世しますよ、こうすればビジネスが成功しますよ」といった “答え” が明示されているような本にはしたくない、という思いが強くありました。とはいえ、「伝えたいことがあまりにも漠然とした読者まかせの本では駄目」という三島さんからのご指摘もありまして、最終的には、「山の頂上の場所が書かれた地図のような本」になるよう心がけました。「方向性はある程度示しつつ、山登りをしている間に、周りの風景や足元に何を見つけるかはその人次第」。そんな本が出来上がったと思います。

大井実さん

大井実さん

大井 タイトルの『生きるように働く』には、どのような思いが含まれているのですか?

ナカムラ 私は大学の建築学科を卒業して、設計・デザインだけでなく、企業経営や資金調達などの実業的な知識も身につけたいと考え、不動産会社へ就職しました。そのときの先輩や同僚の多くが、仕事と遊びのオンとオフをはっきりと分ける人たちでした。そうした平日はおとなしく働いているのに、土日になると妙にテンションが高くなって、月曜がくるとまたもとのテンションに戻るという生き方に、なんとなく違和感を覚えていました。その一方で、少数派ではありましたが、「職場にいる時間もそうでない時間も自分の時間には変わりない」という過ごし方をする人もいました。そうした同じ会社に勤める人たちの生き方や働き方を見るなかで、自分にとっては、「オンとオフがない、連続した自分の時間を生き、そして働く」という感覚で過ごした方が人生楽しいのではないか、そう思ったのです。その思いが、この本のタイトルにこめられています。

大井 その感覚は、モノづくりに携わる人に多いと思います。仕事に終わりがないというか、ライフワークは分けられないというか、興味があることをとことん突き詰めていく志向だともいえるでしょう。

ナカムラ ここで誤解してほしくないのが、「みんながみんな、そうすべき」という話ではないということです。オンとオフがある人生を否定しているわけではなく、全ての人が自分にあった生き方、働き方を選択できることが重要だと思っています。

大井 ナカムラさんが、いま一番興味があるのはどんなことですか?

ナカムラ 一言でいうと、「居場所づくり」ですね。自分は、父親の仕事の関係で転校が多かったせいで、人とすぐに仲良くなる能力が自然と備わった気がします。新しい仲間の中で、自分の居場所をすぐに見つけられる、という。ただ、全ての人にそんな能力があるわけでなくて、誰にとっても居心地の良い場所をどうやって作れるか、そのようなことを考えながら試行錯誤しています。

大井 実は私の父親も転勤族で、先ほどナカムラさんがお話されたのと同じような思いを持つようになりました。そうした思いが、自宅、学校、職場以外の「居場所」としての書店やカフェを作るきっかけになりました。

ナカムラ 「積極的に参加する人」と「消極的に参加する人」が共存できる空​間って重要だと思うんですよね。 ​ ​ 私は「同調圧力」が苦手で、少なくとも自分の周囲からは極力排除したいと思っています。まさに本屋さんは消極的な参加も許される場所ですよね。本を買い求めに来ている人だけなく、立ち読み目当ての人もそこに居ることが許されているという。私は『日本仕事百貨』の運営会社が入居するビルの1階にバーをつくり、仕事が終わるとカウンター席で飲みながら、お客さんたちとの交流を楽しんでいます。

大井 私が20代から30代にかけて過ごしたイタリアのバール(bar)を思い出しますね。大勢でおしゃべりしながら長居するもよし、一人でふらっと訪れて一杯だけ飲んで帰ってもよし、という自由な空間。利用する人が過ごし方を選べる空間があるのは素敵ですし、街やそこに住む人たちにとても良い影響を与えるものだと思います。

ナカムラ また、どこでも誰でも自主上映会が開ける「popcorn」というサービスを昨年4月に始めました。主にミニシアター系や自主制作の映画作品をネット配信するサービスで、現在150本ほどのタイトルが登録されています。通常、映画の上映会で必要となる「フィルム使用料」「上映許可料」のような初期投資がないのが特徴で、カフェでもオフィスでも屋外でも、インターネット環境さえあれば上映会が開ける仕組みです。人と人とがつながるプラットフォームとして、「popcorn」を利用した映画上映会が全国に広がってくれたらと期待しています。

大井 魅力的な事業を次々に企画されていらっしゃいますが、ナカムラさん次にやりたいことはどんなことですか?

ナカムラ さしあたっては、『生きるように働く』の読者による「編集部」を立ち上げたいですね。この一冊の本がきっかけでつながった人たちでチームを結成して、何か面白いことをやってみたいと思っています。積極的な参加でも、消極的な参加でも構いません。『日本仕事百貨』のサイトからぜひアクセスしていただきたいと思います。

大井 どういった展開になるのか楽しみですね。ナカムラさんの今後ますますのご活躍を期待しています。本日はありがとうございました。

トークイベントの後半には、人生を植物に例えた場合の、自分にとっての「水やり」になった一冊を参加者各自が紹介。

参加者一人ひとりの思い入れが詰まった一冊がこんなに集まりました。

そして、カフェ&ギャラリー・キューブリックでのトークイベントアフターのお楽しみといえば、ゲストを囲んでの懇親会。

特製キーマカレーとBKベーカリーのパンをいただきながら、大いに盛り上がりました。

■関連サイト■

・生きるように働く人の仕事探し「日本仕事百貨」

・生き方・働き方に出会うバー「しごとバー」

・みんなでつくる、それぞれのマイクロシアター「popcorn」

・原点回帰の出版社「ミシマ社」

カフェ&ギャラリー・キューブリック

構成・編集:西山健太郎(福博ツナグ文藝社)

※情報は2018.10.12時点のものです

西山健太郎

1978年福岡市生まれ。2017年2月、樋口一幸氏(Bar Higuchi店主、ウイスキートーク福岡・実行委員長)とともに、福岡の飲食文化・芸術文化に関する情報発信を行う非営利団体「福博ツナグ文藝社」を設立。西日本新聞社のアート情報サイト・ARTNE(アルトネ)でのアートイベントレポート・若手アーティストインタビューやリビング福岡ウェブサイトでの“福岡の美しい日常風景”をテーマにした写真コラム「福岡風景/Fukuoka View」の連載など、独自の切り口で情報発信を続けている。

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