美味の概念変える“香りの魔術師”有馬亮シェフ【レストラン アレナ】前編

グルメ都市、福岡で新ミシュランガイドが発刊されます

グルメ都市、福岡。新しいミシュランガイドが発刊されます

 飲食店格付けの世界的な指標の一つ「ミシュランガイド」。2008年にアジア初の「ミシュランガイド東京」が出版されて以来、日本の各地方に焦点を当てた”特別版”も徐々に対象エリアを拡大しています。今回、「福岡・佐賀・長崎 2019 特別版」の発売を7月13日(土)に控え、福岡の飲食店舗を再評価する機運が高まってきています。

 福岡を対象にしたミシュランガイドが発売されるのは、実に5年ぶり。その間、業界はさまざまな新店の誕生に沸き、名店の味は一層研ぎ澄まされ、また老舗はその円熟味を増しながら屋台骨となって福岡グルメの活況を支えてきましたが、めったにない権威による評定がなされる前に筆者がお伝えしたいのは、格付けで飲食店の”評価は一変”しても”現実は不変”であるということ。

 つまり、皆さんの愛するお店の味こそが真実であり、外部評価の高い低いに一喜一憂する必要は全く無いということです。願わくは、皆さん一人一人がご自身なりの指標を持って、愛すべきお店を応援し続けられる好循環が保たれんことを。

  さて、今回ご紹介するのは、そうした格付けの枠を飛び越えて、筆者のグルメ遍歴上、最高の感動と刺激を頂いた記念碑的なお店「レストラン アレナ(Restaurant Aréna)」(福岡市中央区西中洲)です。何を隠そう、筆者が当コラムほか各媒体でグルメ記事を執筆するに至ったのも、このお店との衝撃的な出会いがきっかけ。

レストラン アレナ

レストラン アレナ

 国体道路・春吉交差点から水上公園方向に50mほど進んだ右手にあるその店は、オープンから約3年(2019年7月現在)の比較的新しいモダンフレンチレストランです。外観こそ控えめで、ややもすれば見逃してしまう閑静なたたずまいですが、ひとたび扉を開ければ、そこはまぶしいほどの白一色の世界。日常と非日常に明確な境目があるとすれば、この扉を隔てたわずかひとまたぎがそうに違いないと確信する耽美(たんび)な光景が広がっています。

アイボリーに近い柔らかな白の光に包まれる優美な店内空間

アイボリーに近い柔らかな白の光に包まれる優美な店内空間

 店内は、1日2組限定(または基本上限6人)というコンセプトに沿ったぜいたくな空間づくりが冴(さ)え渡ります。シンプルモダンな造作に淡い陰影を映し出す間接照明の柔らかな光は、来店客さえも情景の一部に溶け込ませるような、まるで夢見心地な演出。調度品や家具類、テーブルクロス、カトラリー等、シーンのどこを切り取っても「エレガント」かつ「優美」。誰もがそういった言葉を漏らさずにはいられない上質な設えに思わず息をのみます。

ゲスト一人ひとりが心置きなく寛げる贅沢な空間。奥には2人席も

ゲスト一人一人が心おきなくくつろげるぜいたくな空間。奥には2人席も

 中でも目を引くのが、フランスを中心に約300種類以上ものワインが収納されている4台の大型セラー。最高品質のAOCワインのみが取りそろえられたラインアップのすさまじさは、テーブルに置かれた百科事典のごとき分厚さのワインリストを見れば一目瞭然。

ワインラバー垂涎のラインナップが所狭しと並ぶ巨大ワインセラー。隅々まで管理が行き届いています

ワインラバー垂ぜんのラインアップが並ぶ巨大ワインセラー。隅々まで管理が行き届いています

圧巻の極厚ワインリストは、リーズナブルなものから最高級ワインまで産地別に網羅されています

圧巻の極厚ワインリストは、リーズナブルなものから最高級ワインまで産地別に網羅されています

 フランス・ボルドーの五大シャトーや世界最高級ワインで知られるロマネ・コンティといった超名門ワインから、入手困難な有名小規模ドメーヌ(地域)のきら星のようなワインまで、守備範囲の広さは折り紙付き。時折、掘り出し物のように良心的な価格設定のワインがリストに載っているのもワインラバーたちの心をくすぐります。

ワインの様々な味わいごとに最適な形状のグラスが用意されています

ワインのさまざまな味わいごとに最適な形状のグラスが用意されます

 グラスメニューも常時10種類程度と充実。午後10時以降はワインバーだけの利用も可能となりますが、ぜひそこでは店主自慢のフロマージュ(チーズ、20~30種類)を。熟成された最高の状態のチーズと厳選ワインのマリアージュ(組み合わせ)はこの上ない至福の味です。ソムリエ・水田勇太氏のそつなくきめ細かなサービス、付かず離れずの適度な距離感、柔和なお人柄が醸し出す独特の居心地の良さは、いつしか時間が経つのを忘れさせてしまいます。

熟成を経て最高の状態のチーズをお好みで。バータイムの目玉の一つです。

熟成を経て最高の状態のフロマージュ(チーズ)をお好みで。バータイムの目玉の一つです

 さて、気になる料理は、1万2,000円(税・サービス別)の10皿コース(夜)のみ。国内外から厳選した季節ごとの旬の食材とその繊細な風味を生かし、ドラマチックなストーリー仕立ての料理構成を創作するのは、白壁のスリットから見え隠れする厨房(ちゅうぼう)で、黙々と調理にいそしむオーナーシェフの有馬亮氏。 

 パリのミシュラン二つ星店「パッサージュ53」「シュール・ムジュール」、ブルゴーニュの三つ星店「メゾン・ラムロワーズ」など本場フランスの名だたるレストランで腕を磨いた有馬氏の鋭い感性が凝縮された料理は、造形・彩りともに一流の絵画作品を思わせる完成度の高さ。

料理例1:「ラム・レザン」フォアグラの豊かな甘みとフランボワーズの心地よい酸味が絶妙に絡み合うアレナのスペシャリテ

料理例1:「ラム・レザン」フォアグラの豊かな甘みとフランボワーズの心地よい酸味が絶妙に絡み合うアレナのスペシャリテ

 内装と同じく、白一色に統一されたオーダーメードの食器類は氏にとってのまさしくキャンバスと言えますが、食材の色味を繊細に、時に大胆に配置しながら料理を形づくっていくアーティスティックなセンスは、ジャンルの枠を超えた造詣の深さを感じさせます。

料理例2:「ヴェル・フォンセ」ヤリイカの甘みと、三つ葉・ディル(泡部分)の微かな苦味とを対比させる風味のマジック

料理例2:「ヴェール・フォンセ」ヤリイカの甘みと、三つ葉・ディル(泡部分)の微かな苦味とを対比させる風味のマジック

 聞けば、有馬シェフが料理業界に携わる以前に志していたのは、意外にも映画音楽の作曲家。なるほど。一人の表現者として、舞台は違ってもその精神性は普遍的なもの。言うなれば、氏の料理は”お皿の上の交響曲”。食材はオーケストラを構成する楽器であり奏者なのでしょう。

料理例3:「土のミネラル」大地の栄養素が、根から吸い上げられ、葉に行き渡るまでのドラマを食材で表現した逸品

料理例3:「土のミネラル」大地の栄養素が、根から吸い上げられ、葉に行き渡るまでのドラマを食材で表現した逸品

レストラン アレナ(Restaurant Aréna)
住所:福岡市中央区西中洲10-3 1階
席数:10席(団体利用の場合6人まで)
営業:ディナー 18:00~22:00 ※前日までに予約を
フロマージュ&ワイン22:00~24:00 ※予約状況により20:00~対応可
料金:コース12,000円(税別)、サービス料1,000円、ドリンク別途
電話:092-406-4437
不定休

★関連記事:美味の概念変える“香りの魔術師”有馬亮シェフ【レストラン アレナ】後編

※情報は2019.7.10時点のものです

レストラン アレナ

住所福岡市中央区西中洲10-3 1階
TEL092-406-4437

フードアナリスト フジワラ コウ

福岡市内のミシュラン星付き店に広報として勤務する傍ら、料理に寄り添うワインの奥深い魅力に目覚め、ソムリエ協会認定「ワインエキスパート」を取得。その後も食への飽くなき探究心は尽きること無く、ついには”食の司法試験”と言われる難関資格「フードアナリスト」の上級資格を取得。以降、専門家として培ってきた知識と経験を以って、優れた「食」を様々な文化の融合した”総合芸術”として捉え直し、消費者の心の琴線に触れるような料理や飲食店の発掘、またその価値観や認知向上を目的に日々情報発信を行っている。その礎となる外食歴はジャンルを問わず県内外で正味1000軒を超え、現在も増え続けている。座右の銘は「神は細部に宿る」。

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