美味の概念変える“香りの魔術師”有馬亮シェフ【レストラン アレナ】後編

 筆者のグルメ遍歴上、最高の感動と刺激を頂いた記念碑的なフレンチレストラン「レストラン アレナ(Restaurant Aréna)」(福岡市中央区西中洲)についてです。

レストラン アレナ 料理イメージ

レストラン アレナ 料理イメージ

 そして、アレナの料理で最も注目したい特徴が、それら楽器の奏でる“旋律”とでも言うべき「香り」の複雑さ。味わいのテーマや狙いに応じて、30種類以上ものハーブを巧みに使い分けるという有馬亮シェフの緻密な計算力は見事と言うほかなく、高度な火入れ技術によって各食材から引き出されたさまざまな苦みや食感、舌触り、フレンチの醍醐味(だいごみ)である多種多様なソースとの組み合わせは、いわば無限大。訪れるたびに、味わったことのない鮮烈な香りのハーモニーが脳裏に刻み込まれます。

料理例4:「ル・ノワール」クロダイの黒、ブラックオリーブの黒、そして焼き目の黒など正に黒(ノワール)づくしのテーマ作

料理例4:「ル・ノワール」 クロダイの黒、ブラックオリーブの黒、そして焼き目の黒などまさに黒(ノワール)づくし

 その味を一言で表現するなら、ひたすらに「清廉」。その清らかで豊かな味わいには、食材の真価を損ねまいとする日本料理の引き算的アプローチが色濃く感じられますが、同時に、香りや風味を幾重にも合わせる足し算的アプローチはいかにもフレンチ的であるという特異な二面性を持ち合わせています。

料理例5:「アルペジオ」音楽用語で

料理例5:「アルペジオ」 音楽用語で“分散和音”を意味する料理名にふさわしい、出自を異にする食材たちの見事な調和

 これほどに多くの風味が重なり合っても、全体の味の輪郭が少しもぼやけないのは、その特異性ゆえか、各食材の強烈な個性をもまとめ上げ、非凡なハーモニーを引き出せる有馬シェフの名指揮者たるがゆえんでしょうか。

頼するベーカリー「ザ・ルーツ(薬院)」にオーダーしているという食感・風味ともに素晴らしいバゲット

信頼するベーカリー「ザ・ルーツ」(同区薬院)にオーダーしているという食感、風味ともに素晴らしいバゲット

  特筆すべきなのは、すがすがしいまでに排除された「うま味」。現代料理において最も必要と考えられている味の要素をあえて取り除くシェフの真意とは―。それは「真のおいしさ」を浮き彫りにすること。

料理例6:「エモーション・クレミュー」牛・豚・鶏のどれでもない

料理例6:「エモーション・クレミュー」 牛・豚・鶏のどれでもない「猪」こそが最もエレガントな味わいの食肉であると教えられた傑作

 うま味とは、元来、人間の舌にある感覚器の味蕾(みらい)が感じる味の一成分に過ぎず、そもそもおいしさと同義ではありません。特段、日本人の満足感に直結しやすいうま味がそぎ落とされることで、食べ手は自らのおいしさを再定義する機会を得ます。そこで初めて、人間の多様な感性を揺さぶる何か、つまり、心の琴線に触れる味わいこそが「真のおいしさ」だということに改めて気付かされます。

料理例7:「メゾン・ド・ビュルゴー」最高級シャラン鴨の肉質と、その美味しさを引き出すシェフの

料理例7:「メゾン・ド・ビュルゴー」 最高級シャラン鴨の肉質と、そのおいしさを引き出すシェフの“火入れの妙”にもだえる逸品

 アレナが伝えるそれは、キャンバス上に“味と香り”で彩られたつかの間のアート。その一瞬の芸術性が人々の感性に強く訴えかけるのです。

料理例8:「コント・ド・コンテ」熟成させた2種類のチーズ(コンテ)と旬菜のそれぞれ力強い風味の競演

料理例8:「コント・ド・コンテ」 熟成させた2種類のチーズ(コンテ)と旬菜のそれぞれ力強い風味の競演

 初めてアレナの料理に出合った時、その未知なる美しい味わいに、筆者の琴線は鳴りやみませんでした。決して玄人向けの奇をてらったものではなく、フランス料理が真摯(しんし)に追い求めてきた美食の道の延長線上にありながら、これまでのおいしさの概念を変え得るスケールの大きさと、この味が次世代のおいしさの一つの基準になるという確信、そして、時代がこの(アレナの)ステージに早く追いつかなければならないという不思議な焦燥感を同時に感じたのです。

デセール例1:「アントワネット」極薄のクロワッサンのシェルの中には薔薇や苺のクリーム。艶(あで)やかな見た目と高貴な味わいに舌鼓

デセール例1:「アントワネット」 極薄のクロワッサンのシェルの中にはバラやイチゴのクリーム。あでやかな見た目と高貴な味わい

デセール例2:「パレ・ノワゼット」ショコラの甘みよりも、その酸味や香り、ヘーゼルナッツの苦味が光るアレナの定番

デセール例2:「パレ・ノワゼット」 ショコラの甘みよりも、その酸味や香り、ヘーゼルナッツの苦味が光るアレナの定番

 訪問する度、シェフの紡ぎ出す食の奥深い世界に打ちのめされることで、筆者の焦りは次第に確固たる使命感へと変わっていきます。この感動と学びの価値観を何らかの形で伝えたい…その思いが現在も「食」をテーマに筆を執る強いモチベーションとなっています。

 レストラン アレナは、新しいおいしさの創造へ挑み続けるシェフのたゆまぬ向上心と、それを支えるソムリエの確かなサービスを原動力に、これからさらなる高みへと着実に歩みを進め、進化していくことでしょう。いずれ予約の取れないお店になろうことは、1ファンとして一抹の寂しさを覚えますが、そのような得難いお店がここ「福岡にある」という事実に誇りと感謝の念を抱きつつ、これからも応援し続けたいと思っています。

有馬シェフ(右):食材の繊細な香りを活かした

有馬亮シェフ(右)と水ソムリエの田勇太氏

 

レストラン アレナ(Restaurant Aréna)
住所:福岡市中央区西中洲10-3 1階
席数:10席(団体利用の場合6人まで)
営業:ディナー 18:00~22:00 ※前日までに予約を
フロマージュ&ワイン22:00~24:00 ※予約状況により20:00~対応可
料金:コース1万2,000円(税別)、サービス料1,000円、ドリンク別途
電話:092-406-4437
不定休

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※情報は2019.7.10時点のものです

レストラン アレナ

住所福岡市中央区西中洲10-3 1階
TEL092-406-4437

フードアナリスト フジワラ コウ

福岡市内のミシュラン星付き店に広報として勤務する傍ら、料理に寄り添うワインの奥深い魅力に目覚め、ソムリエ協会認定「ワインエキスパート」を取得。その後も食への飽くなき探究心は尽きること無く、ついには”食の司法試験”と言われる難関資格「フードアナリスト」の上級資格を取得。以降、専門家として培ってきた知識と経験を以って、優れた「食」を様々な文化の融合した”総合芸術”として捉え直し、消費者の心の琴線に触れるような料理や飲食店の発掘、またその価値観や認知向上を目的に日々情報発信を行っている。その礎となる外食歴はジャンルを問わず県内外で正味1000軒を超え、現在も増え続けている。座右の銘は「神は細部に宿る」。

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