モーツァルト5大オペラ「後宮からの逃走」 最終稽古で見た感情表現の技に驚嘆!3/24福岡で公演

◆至近距離に錦織健

手を伸ばせば届く距離で、あの錦織健が歌い始めた。場面が変わり、佐藤美枝子がやはり目の前まで来て、心を揺さぶるような歌声を披露してくれた。

 

底冷えのする夜、東京・赤坂。モーツァルトのオペラ「後宮からの逃走」の通し稽古に足を運んだ。スタジオは倉庫のような殺風景な所だったが、錦織や指揮者らはラフな半そで姿で、熱い空気に包まれていた。

後宮からの逃走は、日本を代表するオペラ歌手の錦織が、日本でオペラのファンを増やそうと2002年に始めた「錦織健プロデュース・オペラ」の第4弾だ。

 

第1幕が終わったところで錦織が新聞や雑誌の取材陣の前にやってきた。

 

スーツにネクタイ姿の記者たちを見て「ここだけ場違いな雰囲気ですね」と笑うと、今回の公演の説明を始めた。

 

「後宮からの逃走はモーツァルトの5大オペラ、もしくは3大オペラ、プラス2のツーの一つという位置づけです。ドイツなどではよく上演されているようですが、日本ではなじみが薄いかもしれません」

 

モーツァルトは魔笛やフィガロの結婚、ドン・ジョバンニなどオペラの類を20ほど作曲している。後宮からの逃走は代表作の一つではあるが、確かに少しマイナーな感じがある。

 

ということで、公演の企画にも携わる錦織はいろいろ工夫したそうだ。「セリフをすべて日本語にしました。歌はドイツ語なので、誰も意味が分かりませんから、翻訳をつけます」とのことだった。

 

◆佐藤美枝子ありき

そのドイツ語の歌を聴いていて不思議な感覚に囚われた。第1幕ではあまり感じなかったのだが、第2幕になって主役の佐藤の調子が上がり、すさまじい表現力を発揮しだした。こういうのを、ゾーンに入ったというのだろう。言葉は分からないけれども、佐藤が伝えようとする感情がビビッドに伝わってきたのだ。

舞台に立つのは、芸大で学び、イタリアやドイツに留学して訓練を受けた一流の芸術家ばかりである。観客に感情を伝えるのは当たり前のことなのかもしれない。が、佐藤は喜怒哀楽のみならず、繊細な感情までも歌声に乗せて、まったく別次元で孤高の演技をしているように見えた。

 

錦織は、後宮からの脱出をやると決めた理由として「まず、佐藤さんありきでした。あの超絶技巧を使いたかった」と明かした。かなり難しい役どころらしく、「これを演じられる人は佐藤さんしかいない」と言い切った。゙違いの分かる男゛錦織健の言うことだから間違いはなかろう。

 

たまたま、この日の午前、別件で若手のオペラ歌手を取材したのだが、その時、彼女が「いつかモーツァルトをやりたい」と言っていたのを思い出した。そうか、目標にするほど大変なことなのかと、しげしげと佐藤の顔を見た。

 

佐藤は1966年、大分県に生まれた。武蔵野音楽大学を卒業後、イタリアに留学し、1998年、チャイコフスキー国際コンクール声楽部門で日本人として初めて1位になった経歴を持つ。

 

筆者も大分出身で、佐藤に取材中、「あっ、今、大分弁出ましたね。私耳がいいんです」と笑われてしまった。こちらは標準語で話しているつもりだったのに、佐藤の耳は鋭かった。 

 

◆口ほどに物言う目

第2幕で妙なことに気付いた。歌うときの佐藤の目力がすごいのだ。時に中空(本番の舞台では観客席)を見据えて揺るがず、時に相方の錦織を射すくめるほどに見つめていた。

 

歌詞を聞き取ることはできなくても、佐藤の目にぐいぐい引き込まれた。稽古が終わり、感想を尋ねてきたスタッフに、思わず「素晴らしかったです。佐藤さんの目がきれいだった」と答えてしまった。「歌でなく目ですか?」みたいな怪訝な表情をしていたが、説明すると長くなるので放っておいた。オペラでも目は口ほどに物を言いということなのだろう。

 

◆歌舞伎や能と同じ

「皆さん、オペラは敷居が高いと思われている」。錦織の悩みである。物語の意味が分からないので、あまり面白くないと言われてしまうそうだ。

 

だが、福岡市の博多座で行われる歌舞伎、大濠公園能楽堂である能や狂言が好きな方なら、オペラは一見の価値ありと思う。セリフを完全に聞き取れない分、何で理解を深めるか、和と洋の芸術を比較するのも一興だ。

 

同じく福岡市にあるキャナルシティ劇場に足しげく通うミュージカルファンなら、間違いなくオペラを楽しむことができる。オペラはオーケストラだけでなく、歌手もマイクを使わず、生で歌う点がミュージカルと異なるが、基本は同じと言っていい。

しかし、マイクを使わずにアクロス福岡のシンフォニーホールの2階席、3階席まで歌が届くだろうか。少し心配して錦織に尋ねると「大丈夫、プロですから」と笑った。スタジオではスタジオに合わせた音量で歌っているだけということだった。

 

3月24日の夜、アクロスで行う公演は、セリフは日本語だし、ドイツ語の歌にも日本語訳が表示される予定だ。事前にストーリーを頭に入れておけば、言うことなしである。

当日、ドレスコードはない。客席のわれわれが着飾る必要はないし、錦織も「どうぞ気軽な格好で来てください」と話していた。とはいえ、福岡では、おしゃれをして楽しむ粋人も多いのではと思っている。

文・都留 正伸

■錦織健プロデュース・オペラvol.6モーツァルト「後宮からの逃走~ハーレムから助け出せ」■

音楽監督・指揮:現田茂夫

日時:2015年3月24日(火)午後6時半開演(午後6時開場)

場所:福岡シンフォニーホール

料金:S席12,000円/A席10,000円/B席8,000円/学生4,000円(全席指定・税込)

※未就学児の入場不可

問い合わせ:西日本新聞イベントサービス 092(711)5491

 

※情報は2015.3.11時点のものです

この記事もおすすめ