シェリーの魅力~知的なお酒?それともお祭りの供?

今回は私の専門シェリーについて。

専門的な製法やソムリエ試験に出るような独特のソレラシステムのお話は長くなるし、きっと退屈なので…

バーでふと思い出して、お隣の方にお話ししたくなる小さな薀蓄をこっそりお話しましょう。覚えておくと…ちょっとかっこいいかもしれませんよ~~~~

 

シェリーって何?

シェリーはポルトガルのポートやマデイラと同様に世界三大酒精強化ワインの一つ。

スペインの南部アンダルシア州、ヘレスという町を中心につくられるこの白ワインの一種です。

 

ざっくり作り方を説明しますと、まず白ワインをこしらえてからブランデーを添加し…フロールという産膜性の酵母を張らせたり、張らせなかったり、張っていたけど途中でなくしたりして作り、甘口から辛口まで実に様々なタイプがあります。

シェリーの特徴のひとつにスペイン産のお酒ではあるのに、本家スペインとほぼ同じ量をイギリスで消費されており、スペインとイギリスでは人々のシェリーに対するイメージが大きく違う点ではないでしょうか?

 

スペインでのシェリーのイメージ

シェリーは南スペイン・アンダルシアで作られる白ワインの一種でして、ほぼアンダルシア限定のお酒といっても過言でありません。

イスラムの影響を濃く残し、冬でも街路樹にオレンジがたわわに実るアンダルシアでは、春先から数多くのお祭りが催されます。

老若男女がお祭りのときに、ドライなタイプのマンサニージャを明るい日差しの下で飲む…というのがスペインでのシェリーのイメージです。

イギリスではどうなのでしょう?

007という映画を例にとって見ましょう。

007の中でジェームズボンドは赤ワインやシャンパーニュと共にオールドというシェリーを飲みます。

ボンドは上流階級出身ではありません。

世界の強敵と対等に渡り合うために、シェリーを選択することで「自分は只者ではない、思考できる階級なんだ」というけん制を込めたアピールを敵にも見る側にもしている…と言うのも(イギリスでシェリーというのは現在はおばあちゃんの寝酒なる不名誉な位置にあるのも真実ですが)歴史を紐解くと大学で学位の高い人や、海軍将校のお酒という位置づけがあるそうなんです。

イギリスにとってのシェリーって?

イギリス人はワインが大好きです。

フランスのアリエノール・ダキテーヌと、アンリ・プランタジネット(ヘンリー2世)の結婚によりボルドーを手にしたイギリスにはボルドーのワインが大量に入っていきますが、その後の100年戦争でボルドーを失いワインが手に入りにくくなってしまいます。

困ったイギリスがイベリア半島を探して探して…やっと見つけたのがシェリー。

 

カトリックの総本山たるスペインとは16世紀初頭からの100年で6回も戦争をするほどの仲だったのに、それでもシェリーは取引量を増減させながら絶えずイギリス人たちに飲まれていました。

またイギリス人って言うのは紅茶をブレンドして発展させ楽しんでいますよね。

それと同様にシェリーも樽ごと買って、自分達の好みの味わいにして飲んできた…シェリーも紅茶と同じようにイギリス人によって発展し世界に広められたお酒なんです。

 

海とシェリー

ところで、イギリスというのはポルトガルやスペインが苦労して開拓した新大陸との航路を利用して三角貿易などを行い、産業革命を果たし、世界の文化の最先端となります。

 

きっかけとなった大航海時代

新大陸発見の船に何故酒精強化ワインが積み込まれたのか?

どこかで耳にされたことがありますか?

 

私が昔ソムリエとして勉強中だった頃聞いたのは「ワインをそのまま積むとインド洋航行中に高温で腐るから。織田信長が飲んだのも甘いポートだったんだよ」です。

でも、これ実はいくつか矛盾点があります。

 

ひとつは、新大陸まで航行していた船には下級船員用のビール(しかも当時はまだホップが使用されていませんでしたし、常温で飲むので…その味は想像に絶します)も積み込まれていたこと。

ビールはワインよりもアルコール度数が低い飲み物です。

それに当時の赤ワイン…特にマラガやドウロなどは今でもガシガシ圧搾をしてポリフェノールや鉄分を多く含んだフルボディのワインができあがりますので、当時も天然の防腐剤であるポリフェノールが豊かで、丈夫だったと思われます。

 

ポートワインが酒精強化されたのは18世紀になってからですので…きっと織田信長が飲んだのはポルトガルの赤ワインだったのではないでしょうか?

 

シェリーは白ワインから作られますので、ポリフェノール分が少なく、どうしても劣化しやすい飲み物でした。

 

では、何故劣化しやすいシェリーを船に積み込んだんでしょう…?

 

シェリーの色の濃いオロロソなどのタイプには「トリプトファン」と呼ばれる物質が含まれます。トリプトファンは他に牛乳やバナナなんかにも含まれているそうなのですが、体内に入ると「セロトニン」という物質に変わり、「ドーパミン」や「ノルアドレナリン」などの興奮的な脳内麻薬を抑える働きをする…。天然の精神安定剤なのです。

琥珀色のシェリー、右手がアモンティリャード。右がオロロソ。

危険に慣れっこの下級乗組員ならビールで十分だったかもしれませんが、デリケートな貴族や将校たちにとってシェリーは大切な薬でしたし、新しい交易先と交渉するときにシェリーはとても良い役目を果たしてくれたでしょう。

シェリーの現在

長らくイギリスではブレンドされた甘いシェリーが親しまれており、そのためか「おばあちゃんのお酒」「お年寄りがクリスマスや寝る前に飲むお酒」と老後的イメージがあります。

 

本国スペインでもシェリーの蔵元は減る一方で、生産者はシェリーの原料となるパロミノを引っこ抜いてカベルネソーヴィニヨンなどの国際的に競争力のある品種を植えているそう。

 

ですが、現在シングルモルトブームや、ワインでもヴァラエタルワインブームを受けてか否か…作り手こだわりの辛口シェリーを揃えるバーもロンドンで増えてきています。

 

そういった場所では、シェリーは考え事をしたり、読書をしたり、友人と語りながらゆっくり楽しむお酒です。

 

ベネンシアドールたちが蔵元やお祭りでおこなう、ベネンシアールという高い位置から手元のグラスへ注ぎいれるパフォーマンスもほぼ行われません。

先のジェームズボンドの話にもあるように、ヨーロッパの…とりわけイギリスは階級意識の強い社会です。服装やしゃべり方でお里が知れる…ではないですけども、公共の場で何を飲むのか、そういったことでも人となりをはかられることがある…と、まず「知る」

現在の若いイギリス人達にそういった意識はないかもしれませんが、知って飲むと何倍も美味しく感じられるのではないでしょうか?

 

一方、

スペインではお祭りやパーティで相手の多幸を祈って先のベネンシアールする伝統があります。

 

私は…静かに飲むイギリス的なアプローチも

楽しく「オレ~」とベネンシアールするスペイン的アプローチも両方好きです。

 

危険で不安な航海に欠かせなかったシェリー。

イギリスの有名な海賊ドレイクが奪ったのも、

漫画ワンピースで皆が飲んでるのもシェリー。

海賊的アプローチからのシェリーの飲み方があっても面白いかもしれませんね。

 

さぁ、今夜はシェリーで乾杯です!!

 

※伊藤さんのコラム「ワインとチーズをもっと楽しく!」⇒https://fanfunfukuoka.com/tag/wine_cheese/

※情報は2015.3.31時点のものです

伊藤 治美さん

福岡市のレストランでソムリエとして勤務。

2014年度公式ベネンシアドール(スペイン、ヘレス地方の特産品であるシェリー酒の専門職)認定試験に合格。福岡県内で2人目のベネンシアドーラ。

シニアソムリエ、チーズプロフェッショナルの資格も持つ。プライベートでは2児の母。

伊藤さんのインタビュー記事⇒https://fanfunfukuoka.com/people/19834/

伊藤さんのブログ⇒http://ameblo.jp/cabernetfranc-110/

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