熟成肉と…シャンパーニュ!「本物の熟成肉をいただく会」へ潜入!

「熟成肉」とは何でしょう?

アメリカでは昔からステーキハウスで、ドライエイジドビーフ(乾燥熟成肉)を使っていることや、店内に自前の乾燥熟成庫を持っていることを売りにする店が多く、熟成肉はアメリカから日本へ発信された新しいお肉のいただき方だと思われる方も多いかもしれません。

が、日本でも精肉店では大きな牛を1頭おろしたらだいたい数週間~2ヶ月くらいは保存庫で熟成しながら保管し販売していたそうです。

「肉は、腐りかけが一番美味しいんだよ」と聞いたことはありませんか?

(そうおっしゃられても腐りかけのお肉なんて…怖いし臭そう)

11月のある日、「本物の熟成肉を食べる会をするから来ませんか?」と、誘われた私は正直、そういう失礼極まりない心配…要は「おなかを壊したらどうしよう」という不安をほんの少し胸に会場である春吉のイグレックへ向かったのです。

まず

美しく掃除されたあとのランプ芯、サーロイン80日熟成、豚ロース2ヶ月熟成

そして掃除をする前のランプとサーロイン

熟成肉の表面は赤黒く変色し、カビが生えてはいましたが、私が想像していたような、ゾンビのように溶けて腐っているという状態では全くありません。

「表面を焼いて食べることは出来ますか?」と伺うと

「まず間違いなくおなかを壊します」と当然却下。

 

熟成肉は何故美味しい?

赤身の肉には水分が含まれます。風をあて、この水分を飛ばしながら熟成させると蛋白質やミネラルが凝縮。

また熟成菌がうみだす酵素が蛋白質を分解し、うまみのもととなる「アミノ酸」へ変えたり、肉質を柔らかくしていきます。

この乾燥させながらの熟成を「ドライエイジング」方といい、肉にナッツやバターのような風味がでるのが特徴。焼くと口中にこおばしいうまみが広がります。

味わいは、うまみとへーゼルナッツの風味のボリュームが素晴らしく、特に脂身がアーモンドケーキのように甘い香りがしました。

一方「ウエットエイジング」「枝枯らし」は風を当てずに熟成するので、ドライエイジングとは違う熟成菌が付着。

より個性的なかおり…味噌のような風味がでるとのことで、チーズで言うところのウォッシュチーズのような強めの風味がつくのでしょうか。

 

熟成に向く肉は?

鶏肉は鮮度が大切なので熟成には向かないそう。

水分が少ない肉質では熟成するとぱさぱさになるそうで、豚肉は乾燥と保水のバランスが難しいと聞きます。

 

逆に牛肉でも霜降りの高級な和牛は脂が多く、熟成しなくても柔らかくいただけますし、豊富な脂分は熟成の邪魔になります。

 

熟成肉は経産牛や、脂身の少ない、たっぷり運動させた赤身の牛肉で行うことが多いそう。

硬い肉質のものを美味しくいただくための工夫というのも熟成の理由のひとつ。

他にはジビエや羊(独特の香りが優しくなる)で熟成が行われています。

 

では、一般家庭の冷蔵庫でも熟成できるのでしょうか?

これは危険です。

現在「熟成肉」の定義はとてもあいまいで、冷蔵庫で数日ほっておいても「熟成」といってしまえます。

ファミリーレストランやファストフードでも「熟成」をうたっていますが、元々冷凍して配送されていた肉の冷凍をチルド程度の温度で配送してきて、冷蔵庫で長めに保存してから、焼いて食べるというのは本当の意味での熟成とは違いますし、低い温度で活動できる人体に有害な菌が付着する危険性があります。

また、一般家庭の冷蔵庫は食品の出し入れが頻繁で様々なものを冷蔵するためどんな菌が強いかがわかりません。

 

熟成はあくまでも、適切で有用な微生物を付着させる環境が必要となります。

ある熟成肉メーカーは30年かけて、美味しい熟成肉のための熟成庫を作り出したとか。

美味しい熟成のためにはシビアな環境つくり、適切な菌相が絶対に必要なのです。

精肉を保存する熟成庫は温度1~4度。

扇風機で肉に風を当てながら、湿度60~80パーセントに保たれています。

 

さて、

お肉には赤ワインでしょ?とグラスで赤ワインをいただいた私ですが、フルーティな軽めの赤ワインではこの熟成肉の芳醇な熟成香の上に上滑りして全く太刀打ちできません。

というわけでシャンパーニュが大好きで、古酒の在庫も充実しているイグレックさんならではの熟成シャンパーニュを合わせてみました。

マムのCordon Rouge 1990

ローラン・ペリエのGrand Siecle 1990

ギィミッシェルTradition1982

 

シャンパーニュってフレッシュな泡を楽しむもの、ビールのようにのど越しを楽しむものと思われている方も多いと思います。

 

シャンパーニュを熟成させるといったい…どうなるのでしょう? 

シャンパーニュならなんでも熟成する…ということはもちろんありません。

熟成というのは

お酒の中の糖分がアミノ酸と結合したり、アミノ酸が分解されたり、脂肪酸や有機酸がエステル化したりして、香りや味わいを複雑に変化させていきます。

赤ワインと違い、白ワインやシャンパーニュの熟成はまだまだ語られることが少ないですが、赤ワイン同様にしっかり作られたもの、糖分や酸、エキス分の多いもの。

良い年であったり、一等地の畑で育てられた健全な葡萄。酸味やミネラルなどの熟成に必要な養分が豊富であることが良い熟成のひとつの要素であるといえますし、お肉と同様に熟成を可能にする環境が必要になります。

 

そういった条件を満たした白ワインやシャンパーニュは、色は濃く、美しい金色がかってきます

香りには、ナッツ香、蜂蜜、花や黒糖の特徴が出てきます。

味わいは、くどいコハク酸はすっきりと。するどいリンゴ酸はまろやかに優しくなっていくのです。

熟成肉も良い状態の熟成肉は脂身も肉も濃厚なへーゼルナッツの風味や繊細なうまみがでてきます。シャンパーニュの古酒に共通するへーゼルナッツの熟成香が増幅され、お互いに風味や美味しさが際立っていきます。

 

ちなみに、この熟成したシャンパーニュにあるナッツのような熟成香はスペインの酒精強化ワイン、シェリーも持ち合わせています。

何万円もする熟成シャンパーニュが手に入らないとき、手軽に入手できるシェリーの「アモンティリャード」を熟成肉あわせてみるのも、素晴らしいマリアージュを楽しむ秘訣。 

いよいよ年末を迎え、美味しいお歳暮の上等なハムでもこのマリアージュはお薦めですよ。

 

※情報は2015.12.4時点のものです

伊藤 治美さん

福岡市のレストランでソムリエとして勤務。2014年度公式ベネンシアドール(スペイン、ヘレス地方の特産品であるシェリー酒の専門職)認定試験に合格。福岡県内で2人目のベネンシアドーラ。シニアソムリエ、チーズプロフェッショナルの資格も持つ。プライベートでは2児の母。

伊藤さんのインタビュー記事⇒https://fanfunfukuoka.com/people/19834/

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