【俳人マイノリティ】下京や雪つむ上の夜の雨。

下京や雪つむ上の夜の雨。

江戸期の俳人、凡兆の俳句です。何度読んでも、背筋がぞくぞくします。

10年程前のある日、俳句をしようと思い立ちました。ジュンク堂に行き、俳句雑誌を幾つか購入しました。掲載されていた句の中で、惹かれた俳人がいました。その方の所属する結社に連絡し、入会しました。

俳句をする多くの方は、爺さんです。爺さんの中でも、頑固な爺さんです。もしくは婆さんです。当時の私は、20代です。金髪でショートカットの、中性的な20代です。爺さん婆さんの中に金髪が混じっている様は、なかなかの光景です。今まで様々なマイノリティの経験をしていますが、このときの私はスーパー・マイノリティでした。

 

俳句を始めたての頃、とても緊張しました。今思えば、爺さん婆さん側も緊張していたと思います。なかなか納得できる句が出来ず、よく悔し泣きをしました。爺さん達も慰めようとしてくれましたが、なにせ不器用な爺さんばかりです。そんなときに助けてくれたのが、女流俳人の本村照香さんでした。

照香さんは当時50歳でした。俳句の世界で50歳というのは、猛烈に若いです。彼女の作品は立派な句ばかり。とても励みになりました。照香さんのお力添えもあり、私は爺さん婆さんの中に馴染んでいきました。季題、花鳥諷詠、客観写生。様々なことを教わりました。俳句以外にも沢山話しました。爺さんにデニムのパンツに穴があいていると何十回も注意されたり、婆さんにコンビニのおにぎりの開封の仕方を教えたり。そういう独特で愉快なコミュニケーションも増え、マイノリティとして、呼吸のし易い環境が生まれました。

 

俳句を初めて数年後経ちました。私は病気になりました。重症筋無力症という難病でした。私の生活は一変し、俳句も辞め、孤独になりました。

ある日、照香さんからメールが届きました。知らなかった事実が書かれてありました。照香さんのお子さんは、網膜色素変性症という難病を患っているとのことでした。視野の96%を失っているそうで、加えて自閉症もあるとのことでした。にもかかわらず息子さんは、本村卓空という名の画家となっているとのことでした。残された4%の視野で、精力的に作画活動を行っているとのことでした。卓空さんの作品を観ました。美しく艶やかな天部ばかりでした。岡本太郎や棟方志功の好きな私にはかなり響きました。「障害と戦う」というような枕詞が一切無用の作品。これが、私の救いとなりました。

 

その後、私は奇跡的に回復をしました。生活を立て直し、起業をし、俳句を再開しました。照香さんとは主にSNSでやり取りをしていたのですが、そこに投稿される卓空さんの活動も目覚ましいものでした。去年12月に、卓空さんの画集が出版されました。卓空さんの画の対には、照香さんの俳句も掲載されておりました。よく似合っていました。画集は、発売直後にamazonで売り切れとなりました。素晴らしい。今月はついに、東京で個展が開催されるとのことでした。照香さんから個展のご招待を頂きました。参加しようと思いました。直接お会いするのは久しぶりなので、楽しみにしておりました。上京の為のスケジュール調整をしていた先月の13日でした。卓空さんの個展まであと一ヶ月。その日、照香さんが死んでしまいました。

卓空さんの画です。

私は得難い人を失いました。今は黙して俳句を作ります。言い訳せずに作ります。それでも挫けそうになります。そしたら照香さんを思います。深呼吸をします。それから凡兆の句を、暗唱します。

2016年1月9日夕刊

下京や雪積む上の夜の雨。

土曜に西日本新聞の夕刊に掲載された、照香さんと卓空さん。

「本村卓空・祈りの絵画展」個展会場 丸善・丸の内本店 4階ギャラリー 東京都千代田区丸の内1-6-4丸の内オアゾ内 ℡03-5288-8881

開催日1月13日~16日

https://www.facebook.com/events/1026954140688326/

 

※情報は2016.1.12時点のものです

カミーユ綾香

北九州市出身。在日韓国人と中国残留孤児の多く住む多国籍な街で育つ。 警固インターナショナルの代表として、十数言語による語学スクールとインバウンド支援の多言語ウェブサイト制作会社を運営する一方、難病の重症筋無力症とパンセクシュアルというセクシュアリティの当事者として、様々なマイノリティの生きやすい社会を目指して精力的に活動中。http://www.kego-international.com/

カミーユ綾香

北九州市出身。在日韓国人と中国残留孤児の多く住む多国籍な街で育つ。 警固インターナショナルの代表として、十数言語による語学スクールとインバウンド支援の多言語ウェブサイト制作会社を運営する一方、難病の重症筋無力症とパンセクシュアルというセクシュアリティの当事者として、様々なマイノリティの生きやすい社会を目指して精力的に活動中。http://www.kego-international.com/

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