41歳、働き盛りの弁護士&小説家は突然半身不随になった…【病床ROCK尺】vol.1

vol.1 欧米か!

 それはとつぜんやってきた。平成27年4月21日の夜、コー ヒーを淹れて自宅の部屋で原稿を書こうと、パソコンが起 動するのを待っているときだった。何の予兆もなく、左手と 左足が痺れ始めた。

 手足が同時に痺れるというのは経験のないことだった。 頭に浮かんだのは、オシム監督の脳卒中のコマーシャル。 やっぱり何か変だ。普段から健康体で、まさかそんな大変 なことが起きるとは思っていない。大丈夫だと言い聞かせ つつも部屋を出て、家人に異変を告げると

「救急車に電話してみよう」

と言う。しかし、電話の前で家人の動きが止まる。

「あれ、救急車って何番やったっけ? 911?」

確か、アメリカは救急車が911のはずだ。レスキュー911とい う番組を見たことがある。ただ、そこで

「アメリカやろ、テレビの見過ぎ」

なんて言っても面白くない。僕の頭に浮かんだのは、例の ツッコミだった。あれはネタとして練ってやっているので あって、日常生活で使える場面はほとんどない。チャンス だ。おぼつかない足元が不安ながらも、電話のところに行 き、

「欧米か!」

とツッコむ。ソファに移ろうとしたら、左足に力が入らず床 に転がる。まさに、僕にとっては、決死のツッコミだった。そ れなのに家人は

「あれ、911って国際電話の番号やったっけ?」

だなんて。どうやら、伝わっていなかったらしい。

「国際電話はゼロゼロワンダフルやろ」

という言葉が頭をよぎるが、余りにも古いし、余計に通じな いだろう。などと考えているうちに、ひどい吐き気が襲ってき た。でも、トイレまで歩けそうにない。

「洗面器持ってきて」

と喚くのが精いっぱいだった。経験したことのない嘔吐。口だけではなく、鼻からも戻ってくる。意識が遠のいていく。

 

Profile

法坂一広(ほうさか いっこう)

福岡市を拠点に活動する弁護士、小説家。2011年に『弁護士探偵物語・天使の分け前』で第10回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞を受賞。以降、弁護士探偵物語シリーズを執筆する。最新作は『ダーティ・ワーク』(幻冬舎文庫、2015年)。趣味はアビスパ観戦とトレイルランニング。西日本新聞社刊登山情報紙『のぼろ』でショートストーリーを連載中。

 

※情報は2016.4.7時点のものです

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