41歳で突然半身不随…「ダンセイストッキングの怪」【病床ROCK尺】vol.2

vol.2 ダンセイストッキングの怪

 救急隊の方が来てくれて、ガシャガシャしたのは何となく覚えているのだけれど、救急車に乗ったという記憶はない。生まれて初めての経験だったというのに。とにかく家人が悲鳴を上げているのが耳に残った。「子どもたちは大丈夫かな」なんて考えている余裕はなかった。

 どの段階のことなのか全く分からないけれど、「日赤だから」と聞こえた記憶はある。とにかく周りで人がバタバタと動いていた。やっぱり大変なことになったようだ。こんな夜中に申し訳ない。その頃はうっすらと意識があったようだが、手術のための麻酔が効き始め、意識が遠退いていった。誰かから「足動かして」と言われ、左足が動かないというのが分かった。それから、たぶんドクターの、「ダンセイストッキング履かせて!」という悲鳴のような声。

 僕はこのとき、完全に「男性ストッキング」と変換していた。何でストッキングを履かされなくてはならないのかよく理解できないまま、男性バレエダンサーのような姿になっている自分をイメージしていた。「そんな姿のままお棺に入れられるのは困る、死ねないな」と思ったのがいつのことなのかよく分からないけれど、もしかしたら、少しは生きる気力にはなったのかもしれない。

 後になって思い返してみると僕はちゃんと「弾性ストッキング」という言葉を知っていた。ふくらはぎのあたりで血栓ができて、心臓やら肺やら脳の血管に詰まるのを予防するための医療用のストッキングなのだ。

 

Profile

法坂一広(ほうさか いっこう)

福岡市を拠点に活動する弁護士、小説家。2011年に『弁護士探偵物語・天使の分け前』で第10回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞を受賞。以降、弁護士探偵物語シリーズを執筆する。最新作は『ダーティ・ワーク』(幻冬舎文庫、2015年)。趣味はアビスパ観戦とトレイルランニング。西日本新聞社刊登山情報紙『のぼろ』でショートストーリーを連載中。

 

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※情報は2016.5.26時点のものです

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