有事での「お姫様抱っこ」VS「スウェット」

最近、背泳ぎに夢中です。

時間があればプールに行きます。風邪を引いてもプールに行きます。そうこうするうちに風邪が悪化し、気管支炎になりました。

掛かりつけの野村神経内科で順番待ちをしながら、それでも救急病院に行かないだけまだよかったなと思いました。そして前回の救急病院はいつだったかなと思い出すうちに、忘れえぬ大事件を思い出したのです。

 

2年前のことです。

お腹が痛かったのですが、病院嫌いのため、数時間粘りました。深夜二時を回った辺りで駄目だなと思い、救急病院へ向かうことにしました。

まず、タクシーを呼び、着までの五分間ほどで、すっぴんになり、スウェットの上下に着替え、リュックの中に、保険証やクレジットカード、現金、充電器等を入れ、スニーカーを履きました。ここまでは冷静に対応出来たのですが、冷静さを失ったのは、病院到後です。

冷静とはいえ、白目を剥くほどの痛みです。タクシーから這い降りようとしたとき、私のタクシーとエントランスの間に、自家用車が割り込みました。えっと驚く私をよそ目に、運転席から降車した青年は助手席のドアを開けると、中からふわふわしたミニスカートの女の子が出てきました。女の子はフルメイクで泣いていました。メイクは全然崩れません。ウォータープルーフです。青年は、なんと女の子をお姫様抱っこしました。エントランスまでは歩いて数歩の距離で、お姫様抱っこです。救急病院では、時間との勝負です。一刻も早く医師に診てもらいたいのです。そこで車で割り込みをされた私は、この二人に負けたくないという気持ちが起こりました。歯を食いしばって青年の後を急ぎました。お姫様抱っこの後ろを、スウェットで白目を剥いて追いかけました。受付で、青年は女の子の代わりに問診票を書いていました。女の子は、椅子に座って泣いていました。青年は、問診票の内容をひとつひとつ「○○ちゃん、血液型は?西暦は?」と質問します。

女の子は、「ひっく、ひっく、えっと、、、」という風に応じています。ここでタイムラグが生まれました。自分で問診票を書いている私のほうが早く問診票を書き終わり、先に受付完了したのです。完全なる勝利です。

数十分後、医師の診察を受けた私は、ベッドで点滴の処置を受けておりました。

痛みが和らぎうとうとしていたところ、男女の言い合いのような声で目が覚めました。薄いカーテンの隣のベッドで、例の青年とウォータープルーフの女の子が喧嘩をしていたのです。喧嘩の内容は超要約するとこのような感じです。

女の子「便秘とかそういう言い方をしないで。」

青年「便秘で済んだから良かったねと言っているのに、何故怒るんだ。」

女の子「だからそういう言い方しないで。」

・・・・・

女の子の病の原因は便秘だったのです。そしてそれを医師と青年に指摘され、ばつが悪くて青年にいちゃもんをつけているのです。

 

当時私は隣のベッドでふたりのやり取りを聞きながら実にくだらないなと思ったのですが、それから二年経って診察待ちをしていると、また別の思いを抱きます。

 

便秘かなんだか知らないけれども、その女の子もおなかは痛かったのだろうと思います。お腹の痛いときにはふわふわのスカートなんか脱いでスウェットになりたかっただろうし、ウォータープルーフのマスカラでめそめそするよりも白目を剥いて痛みを表わしたかったはずです。問診票だって青年に頼るふりをせずに自分で書けばもっと早かったし、お姫様抱っこという一芸も省略できたはずです。青年の前で可愛くあらねばならない、青年に頼る非力な女の子であらねばならない。そういう呪縛がなければ私より早く診察が出来ていたし、診察の結果、「便秘」という可愛くない事実が判明しても青年に気まずく当たる必要がなかったはずです。

救急病院という異質な空間で、お姫様抱っこにフルメイクでいることとスウェットで孤独にいること。どちらがいいかは人それぞれですが、ウォータープルーフをオイルで擦り落とす手間には同情するのであります。

※情報は2016.6.23時点のものです

カミーユ綾香

北九州市出身。在日韓国人と中国残留孤児の多く住む多国籍な街で育つ。 警固インターナショナルの代表として、十数言語による語学スクールとインバウンド支援の多言語ウェブサイト制作会社を運営する一方、難病の重症筋無力症とパンセクシュアルというセクシュアリティの当事者として、様々なマイノリティの生きやすい社会を目指して精力的に活動中。http://www.kego-international.com/

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