福岡グルメ小説 “N氏の晩餐”/西新「キャリー」の自家製手打ちパスタとドルチェ

 

「今日、お昼一緒に行かない?」

同期の祐子からランチのお誘い。

特段断る理由もないので応じるのだけれど、祐子のマシンガントークに押されっぱなしで、ゆっくり味わう余裕もなく箸を置くのがいつものパターン。

地下街で買い物があるという祐子と市役所の前で別れ、そのままオフィスに戻る気にもならず、私はふらふらと横断歩道を渡って天神中央公園に足を向けた。思いっきり深呼吸―――。新緑の香りが胸の奥まで浸みわたる。

ベンチに腰を下ろし、一息ついたその瞬間、バッグの中でスマホが揺れた。画面には“N氏”からの着信を知らせる表示。月一で食事に誘ってくれる私の心の救世主からだ。

天神中央公園(提供:福岡市)

天神中央公園(提供:福岡市)

指定された日の19時5分前。地下鉄西新駅の改札前に私は立っていた。電車が到着すると改札口から会社帰りの人たちが次々と流れ出て、それを補うように大学生や高校生が吸い込まれていく。

そのとき、背後から声がかかった。振り返ると笑みを浮かべたN氏がそこにいた。てっきり地下鉄に乗ってくるものと思っていたので、すっかり改札の方に気をとられていたが、外が雨模様になるのを見越して、地下で落ち合うように気遣ってくれたようだ。

相変わらずの紳士ぶりのN氏に案内されたのは、明治通りの一本南側に伸びる通称「オレンジ通り」から城南線へとつながる裏路地にある「C」というカジュアルイタリアンのお店。深紅の看板が妙に艶っぽい。

中に入ると、明るい店内。はつらつとしたオーナーと陽気なスタッフが迎えてくれる。カウンターの上に掲げられた黒板に手書きのメニューが溢れているが、ここはもちろんN氏に身を委ねることにする。

カルパッチョが添えられたサラダ、イサキのグリル、糸島産のポークカツレツと、王道メニューが続く。ワインはオーナーが店の奥のワインセラーから取り出してきた3本の中からN氏が選んだ、プーリアの白。

続いて供されたパスタは一見ボロネーゼ。いわゆるスポゲッティミートソースだが、ひとくち口に含むとびっくり、海の香り。なんとスルメイカのミンチとその肝を和えた「イカのボロネーゼ」なのだった。手打ち麺のなめらかな舌触りにイカの風味が絡み合って、芳醇で風味豊かな南イタリアの白にぴったりの逸品だ。

ワインを一本空にしたところで、N氏がオーナーに「いつもの二つ」と注文。

ドキドキしながら待つこと五分。目の前には淹れたてのコーヒーと色とりどりのドルチェが。

食後にちゃんとしたデザートなんていつぶりだろう。

皿の上にはイチゴとバニラのジェラート二種にガトーショコラ、レアチーズケーキ、そしてイタリアの焼きプリン“カタラーナ”。全部このお店でつくられた自家製ドルチェと聞き、今日二度目のびっくり。優しい甘さに体中が包まれる。

食事を終えて店の外に出ると、路地にきらめくネオンがよりいっそう艶やかさを増していた。城南線にでてタクシーを拾うというN氏を見送りながら、私はそっとつぶやいた。

「西新恐るべし…」。

天神から地下鉄で八分。これから西新で飲む機会が増えるんだろうな…という嬉しい予感に包まれながら、私は駅へと続く道を夢見心地で歩いていった。

【取材協力】

イタリア食堂「キャリー」⇒http://tabelog.com/fukuoka/A4001/A400203/40034965/

※情報は2016.6.28時点のものです

イタリア食堂「キャリー」

住所福岡市早良区西新4-4-4
TEL050-5890-2626 (予約専用番号)
URLhttp://tabelog.com/fukuoka/A4001/A400203/40034965/

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AKASAKA BOY

謎のライター

1978年福岡市赤坂生まれ。福岡の街の魅力を小説形式で発信中☆

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