変態的な文学少女時代の思い出【三島、ヒーロー、高校生】

夜中に引っ越しの準備をしながら、高校時代を思い出しました。

 

私は普段、会社運営しているのですが、事業拡大のため会社を移転しました。会社の引っ越し準備をしているときに、一冊の本を発掘しました。それで高校時代を思い出したのです。

 

北九州での高校時代、カバンに好きな歌手やアイドルの名前を記すことが流行っておりました。お揃いの紺色の大きな四角い革のカバンでした。金具をかちっと外して上をめくると、内側に、個々の憧れる有名人の名前が蛍光ペンででかでかと記されているのです。

 

私のカバンの内側には、【平岡公威】と書かれていました。特に好きなアイドルはいませんでしたが、自分も誰かの名前を記したいと思いました。ではアイドルではなく、好きな著名人であれば誰かなと考えたところ、それは三島由紀夫でした。ですが周囲の女子高生たちがKinKi Kidsなどと記すなかで、自分だけ三島と記すのは抵抗がありました。ならば作家名ではなく本名で記せばよいと思い至りました。ということで私のカバンには、ピンクの蛍光ペンで【平岡公威(三島由紀夫の本名)】と記されていたのです。

 

そんな変態的な文学少女時代のある日のことです。

 

高校から帰宅したある日、リビングテーブルに見慣れない週刊誌が置いてありました。表紙には、黒の油性ペンでどこかの店の名前が大きく記されていました。母親に尋ねると、ソバ屋に置いてあった雑誌をうっかり持って帰ってしまったとのことでした。それは週刊文春でした。母親にぱくられた文春を、ぺらりとめくりました。そこには【三島由紀夫の再来】という見出しがありました。記事は、最年少で芥川賞を受賞した作家の紹介でした。名前を平野啓一郎といい、同じ北九州出身とのことでした。私はむっとしました。傾倒していた三島由紀夫です。再来などと安易に言ってほしくなかったのです。

 

翌日の放課後、書店へ直行しました。三島の名前の記されたカバンから、ソバ屋の名前が記された週刊文春を取り出しました。店員に尋ねると、すぐに【日蝕】という単行本を持って来てくれました。手渡された単行本の冒頭を三行だけ読みました。三行だけ読み終わると、ぱたんと本を閉じ、それを持ってレジへ直行しました。これが私の初めての単行本の買い物です。

 

日々、国内外問わず多くの方とお会いします。

 

カミーユという名なので、国籍や出身地を聞かれることも多いのですが、その際には「北九州という日本のスラム街出身です」と答えます。そう答えるときに、スラム街だけど平野啓一郎というロックな作家の出身地でもあるんだぜと、心の中で思います。そしてほくそ笑むのであります。

※情報は2016.8.24時点のものです

カミーユ綾香

北九州市出身。在日韓国人と中国残留孤児の多く住む多国籍な街で育つ。 警固インターナショナルの代表として、十数言語による語学スクールとインバウンド支援の多言語ウェブサイト制作会社を運営する一方、難病の重症筋無力症とパンセクシュアルというセクシュアリティの当事者として、様々なマイノリティの生きやすい社会を目指して精力的に活動中。http://www.kego-international.com/

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