クレヨンしんちゃんから学ぶ【愛情】と【執着】

福岡は夜の七時。

金曜日、朝からドレスアップすることもなくこの時間に帰宅しました。両手に買い物袋を提げて。その夜の使命は、引越しでお世話になった方々へ配るお礼の準備です。プレゼントに添える手紙を書き始めました。30分もすると疲れました。手紙に思いを込め過ぎました。休憩しようとテレビを点けました。七時半。クレヨンしんちゃんが始まったところでした。滅多に見ない番組です。疲れた脳を休めるのにも丁度よさそうです。外したばかりの眼鏡を再びかけて、テレビを見遣ります。タイトルを見て驚きました。タイトルは、「思いが重いマサオくんダゾ」でした。

 

凄まじいタイトルです。思いつめた女友達を思い出します。全然脳が休まりません。

物語の内容は、こうでした。マサオくんはあいちゃんが好きで、付け回します。しかし、がっつり振られます。あいちゃんはしんちゃんが好きなのです。マサオくんは、「ぼくはこんなにあいちゃんが好きなのに、あいちゃんのことで頭がいっぱいなのに、どうして気持ちを分かってくれないんだ!」と嘆きます。それを聞いたネネちゃんという別の女の子が、「マサオくんの気持ちは重くてひとりよがりなんだよ」と諭します。そしてマサオくんは、自分の思いが重いことに気付くのです。

 

衝撃です。どこかの居酒屋で誰かに聞かされたことのあるような内容です。このようなやり取りが、まさか幼稚園の中で行われていたとは夢にも思いませんでした。

マサオ君のような話を聞かされるとき、私はそれを面倒くさいなあ、とか家に帰ってドラクエやりたいなあとか思いながら適当に聞いています。マサオ君はあいちゃんが好きだけど、あいちゃんはマサオ君が好きじゃない。あいちゃんはしんちゃんが好き。それをあいちゃんは曖昧な態度ではなくはっきりと言っているので、もはや望みはない。以上。玉砕です。となるとマサオ君の敗戦処理は二択です。つまり、草葉の陰からあいちゃんとしんちゃんの幸せを祈るか、あいちゃんの感情や幸せを無視して、嫌われながら死なばもろともと追い回すか。

 

マサオくんは、ネネちゃんに諭されるまではあいちゃんを追い回していました。気持ちを分かってもらえないと喚いてましたが、マサオ君の「分かってもらえない」の意味はつまり、「自分の思い通りにならない」です。愛ではなく執着です。だから重くて暗くて面倒くさいのです。

別に自分の気持ちが伝わらなくても、愛するあいちゃんが他の人と幸せならばそれでいいじゃないか。好きな人がいて、その人が世界のどこかで幸せに生きているというだけで、素晴らしく幸福なことだと思います。そう思えないのであれば、マサオ君は不幸です。

 

とかなんとか考えているうちに、ミュージックステーションが始まりました。テレビを消して、書きかけのお礼の手紙を見ると、ちょっと重たいような気がしてきました。なので手紙を簡潔に書き直して、プレゼントに添えて、お礼の気持ちが爽やかに届けばなと願ったのでありました。

北海道のお米と糸島の紅茶。爽やかに感謝の気持ちを込めて、贈る。

北海道のお米と糸島の紅茶。爽やかに感謝の気持ちを込めて、贈る。

※情報は2016.8.30時点のものです

カミーユ綾香

北九州市出身。在日韓国人と中国残留孤児の多く住む多国籍な街で育つ。 警固インターナショナルの代表として、十数言語による語学スクールとインバウンド支援の多言語ウェブサイト制作会社を運営する一方、難病の重症筋無力症とパンセクシュアルというセクシュアリティの当事者として、様々なマイノリティの生きやすい社会を目指して精力的に活動中。http://www.kego-international.com/

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