安請け合いには気をつけねばなりません。

先日、仲良しのNさんと話しておりました。Nさんの会社の商品は、近頃中国の広州で話題となっております。社長のNさんは会社の更なる国際化のため、外国人向けの就職説明会への参加を考えているとのことでした。ただ、初めての試みなので緊張しているとのことでした。Nさんの会社の製品は上質で私も普段から愛用しているので、説明会にお手伝いに行くことにしました。

当日、説明会の始まる一時間前にNさんから緊急電話が入りました。Nさんは焦った様子で、「会社に発注が殺到し、大変なことになっている。就職説明会に間に合わない」と仰いました。ちょうどそのとき、私は遅めのお昼ご飯を食べたばかりで、頭がぼーっとしておりました。普段からぼーっとしているのに、そこに輪をかけてぼうーっとしておりました。そして私はNさんに、「じゃあ私が代わりにNさんの会社のブースに座っておくよ」と言いました。安請け合いです。なんか知らんけど座ってニコニコしていたらいいだろうとくらいに思っていました。開始ぎりぎりの5分前に会場に入りました。そこで漸く、事態を把握したのです。

熱気あふれる広い会場には、100人近いリクルートスーツの外国人たち。その外国人を囲むように設けられた企業ブースの中では、会社のポスターや商品を並べて自社のアピールをする企業。ここで気付きました。そういえば、私はこれまで就職活動なんてしたことがない。そして自分の性格が初対面の苦手な人見知りだということに。

そう、万事休すです。ですが、逃げ出すわけにもいきません。何故なら私が担当するブース前に並べられたパイプ椅子には、既に12名の外国人が姿勢よく座っています。緊張した面持ちで、私から会社説明を聴こうとしております。退路は断たれました。やるしかない。私は呼吸を正してパイプ椅子に座りました。バッグからPCを取り出しました。PCを起動させ、Nさんの会社のホームページ開いて外国人たちに向けました。PC画面が暗くなりました。PCの電池残量が5%でした。PC画面を自分に向け直しました。死んだPCをよそ眼にカバンから大学ノートを取り出しました。そしてまず、最初の外国人と謎の握手をして、インタビューを始めました。

Nさんの会社の説明を資料ゼロで行いながら、外国人たちの希望の職種や出身校などをメモしていきました。普段は初対面が苦手なのですが、真摯に就職を希望する外国人と接しているうちにそんなことも忘れてしまいました。

砂漠状態での面接

砂漠状態での面接

 ですが危機は続きます。

20人くらいの面接を終えた頃でしょうか。猛烈に、喉が渇いたのです。ちょうど遅めのお昼ご飯のときにペットボトル水を飲み干してしまい、途中で補充するのを忘れていました。ブースには私一人です。孤独です。誰にも頼めません。面接を待つ人々は途絶えず、長い人では20分ほど待っています。ちょっと水買ってくるなんて決して言えない雰囲気です。もはや、気分は砂漠です。前川清の東京砂漠が脳内BGMとして流れます。喉が渇きすぎて声が大山のぶ代になります。ガラガラです。

ですが面接は続きます。そのとき視線を感じました。ふと見ると、仲良しの中小企業診断士の浜先生がおられました。一瞬、あれ何で浜先生が砂漠にいるのだろうと思いました。そういえば今日、昼に浜先生にお会いして、あとで就職説明会にちょっとお手伝いに行くので浜先生も覗きに来てくださいと言ったのを思い出しました。浜先生の表情は困惑しておりました。それはそうでしょう。私はちょっとお手伝いに行くと言っていたのに、ちょっとどころか独りで会社説明をしているのです。しかも自分の会社ではない会社の説明です。浜先生は、私には砂漠のオアシスと映りました。私は浜先生に駆け寄り、ドラえもんのような声で要領を得ない話をしました。ですがそこは冷静沈着な先生です。殴り書きのノートと私の様子で悟ってくれたのでしょう。すぐに隣に着席し、面接を手伝ってくれました。おかげで私は自販機に直行することが出来ました。こうして砂漠から脱出できたのであります。

砂漠で追い詰められた私の殴り書きメモ(左)と、オアシスの浜先生の整然とした箇条書き

砂漠で追い詰められた私の殴り書きメモ(左)と、オアシスの浜先生の整然とした箇条書き

 Nさんの危機を救おうとし、今度は自らが危機に陥り、そして浜先生に救われる。社会はうまくできているなと振り返りつつ、面接した外国人たちもこの社会にうまく入って来れたらなと思うのでした。

※情報は2016.9.19時点のものです

カミーユ綾香

北九州市出身。在日韓国人と中国残留孤児の多く住む多国籍な街で育つ。 警固インターナショナルの代表として、十数言語による語学スクールとインバウンド支援の多言語ウェブサイト制作会社を運営する一方、難病の重症筋無力症とパンセクシュアルというセクシュアリティの当事者として、様々なマイノリティの生きやすい社会を目指して精力的に活動中。http://www.kego-international.com/

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