グルメ小説“N氏の晩餐”in東京<中篇>/神田駿河台・山の上ホテル「天ぷらと和食 山の上」

一番奥の個室へ案内されると、すでにH氏は到着済み。

さっそく生ビールで乾杯。

お膳の上には塩、天つゆ、大根おろし、網が敷かれた鍋がセットされ、天ぷらを今か今かと待ち構える体制。

H氏に、わざわざ時間を取ってもらっていることを詫びると、相変わらずの爽やかな笑顔で「自由気ままな稼業についてますんでお気になさらず。それに私自身も久しぶりに美味しい食事を堪能しています」とさらっと返してくる。ひょっとしてこの人N氏の息子??

そんなつまらないことを考えていると、一品目が登場。

「なにこれ!?」

そんな思いが顔に出ていたのだろう、すかさずH氏の解説が入る。「車海老の頭と前足の部分で、通称“熊手”といいます。活きが良い海老でないとこのようにきれいな形には揚がりません」

ちょっと塩をつけて口に運ぶと、その香ばしさがビールの肴にぴったり。

続いて、海老が登場。

衣が薄く、海老の模様が透けて見える。

口に含んでびっくり。こんなに濃厚な味の海老を食べたのは初めてだ。

「天ぷらとは実は揚げ料理ではなく蒸し料理なんです。衣で素材を包んで高温の油に入れることで適度に水分を飛ばす、そのことによって素材の旨味や甘みを凝縮させるのです。ですからこの調理法には天気、とくに湿度が非常に関係してきます。今日のように曇っていて湿気が多い日に、これだけ外がカリッと、中がふんわりと揚げるのは至難の業。相当な技術を持った職人さんが揚げているということです」

知らなかった。東京でないと味わえない味、そしてこの場所でしか聞けない話があるんだな。

ビールのあと、H氏が注文したのはなんと白ワイン。私でも知っているフランスの白ワイン「シャブリ」がグラスに注がれる。小麦色の輝きが何とも言えない。

淡白なキス、ほっくりとした甘みの小玉ねぎ。冷えた白ワインが最高に合う。

そのあと魚と野菜が4~5品でたあと、最後はアスパラと穴子。

穴子は東京湾の羽田沖で取れるまさに“江戸前”。

カリッと揚がった尻尾の方は塩で、ふんわりと揚がったお腹の方は天つゆで。とはH氏のアドバイス。すべて仰せのままに。一匹で二度美味しいとはまさにこのこと。

ご飯とシジミたっぷりの味噌汁、お新香のあと、デザートはスモモのアイスクリーム。

お店を出たところで、H氏にネクタイを手渡す。

思いのほか喜んでくれ、その包みを手に提げたバックに大事そうに仕舞おうとしたそのとき、バックの奥に何やら金色の塊のようなものがチラッと見えた。

その物体こそが、このH氏という人物が何者かを知るカギだということを、そのときの私は全く気付いていなかったのだが・・・。

<グルメ小説“N氏の晩餐”in東京 後篇につづく>

グルメ小説“N氏の晩餐”in東京<後篇>/浜松町「秋田屋」

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※情報は2016.10.15時点のものです

AKASAKA BOY

謎のライター

1978年福岡市赤坂生まれ。福岡の街の魅力を小説形式で発信中☆

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