41歳で突然半身不随…「涙のエビチャーハン」【病床ROCK尺】vol.10

バックナンバーはこちら⇒https://fanfunfukuoka.com/sickbed_rock/

発病から3カ月。リハビリ転院から2カ月。裁判所にもごまかしがきかなくなり、そろそろ出頭しないといけません。外出許可をもらい、仕事に行くことにしました。初の外出です。

作業療法(OT)ではスーツを着る練習をしたり、理学療法(PT)では車の乗り降りをしたり、準備は着々と進んでいます。左の視野に見えない範囲があるものだから、OTの先生が心配して、「書面を読み上げる練習をしようか」なんて言います。裁判を勘違いされています。そんな場面はありません。

半身の麻痺で汗が出にくくなっているので「熱中症に注意」と言われて、いざ当日。遠足の朝のような気分でした。3カ月ぶりの裁判所。15年も通っていると、もはや新鮮味のない場所ですが、3カ月も間があくと、なぜか嬉しい。一般には近付きたくない場所でしょうに、涙腺あたりがやばい。汗ですよ、これは。きっと、そうに違いない。

無事に仕事を切り上げて、事務所に移動します。残念ながら車椅子です。お昼は外に食べに出ることもできず、テイクアウト。病院食には飽き飽きしていたので、普段食べられないものを、とよく行っていた近くのタイ料理屋さんのエビチャーハンをリクエストしました。

普段は辛いものが好きで、刺激の強くないエビチャーハンを食べることはほとんどありませんでした。刺激物はよくないかも……と思ってのチョイスでしたが、病院食ではあり得ないパクチーの香りでもう十分。こんなにおいしいものか、と、これも涙腺のあたりがやばい。どうやら他の料理の唐辛子が残存していたようです。

普通の生活の有り難さを身にしみて感じた初めての外出。この後、週に一度くらいの頻度で外出して仕事をしていましたが、それもまた社会復帰のためのリハビリでした。辛いものを食べられるようになった今となってはそう思えます。夕方病院に戻ると、お祭りの後のような気分です。次に仕事に行くのが楽しみでならない。普通の日々って本当に幸せなんだと実感しました。

 

Profile

法坂一広(ほうさか いっこう)

福岡市を拠点に活動する弁護士、小説家。2011年に『弁護士探偵物語・天使の分け前』で第10回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞を受賞。以降、弁護士探偵物語シリーズを執筆する。最新作は『ダーティ・ワーク』(幻冬舎文庫、2015年)。趣味はアビスパ観戦とトレイルランニング。西日本新聞社刊登山情報紙『のぼろ』でショートストーリーを連載中。

 

※情報は2016.12.22時点のものです

関連タグ

この記事もおすすめ