非モテ系男子と秘書系女子が対峙したとき

誰しも楽園があります。

私の楽園は、ネットカフェです。その日も仕事を終えてネットカフェに向いました。途中で小腹が空いたので、もうひとつの楽園であるココイチに寄りました。その時期、ココイチではガンダムキャンペーンを開催中でした。レシートを集めて応募し、シャアのグッズでも狙おうと思ったのです。

カウンターだけの狭いココイチ店内はかなり混んでいる様子でした。やはりガンダムグッズ目当ての人々が集っています。入店すると、カウンターに並んだ客が一斉に私を見ました。そして店内の空気が変わりました。客は私を見た瞬間、全力で目を逸らしたのです。

 

ああ、しまったな。私は悟りました。

その日の私は、米国ドラマに出てくる女秘書のようでした。ヒールの高い靴、巻いた長い髪、赤い爪と口紅、強めの香水、フランス製のドレスです。一方、カウンターに並んだ客達は、チェックのネルシャツ、ジーパン、眼鏡姿。所謂、非モテと呼ばれる類の男性陣だったのです。女秘書と非モテ系男子は最悪の組み合わせです。非モテ系の男性は、女秘書系の女性に恐怖心を抱いてしまいます。彼らにとっての女秘書は、先住民族を脅かす征服者です。地球に襲来したエイリアンです。実のところ、私と彼らの心は近いはずです。ともにガンダム目当てでココイチに集った仲間であるはずです。ですが、彼らは頑なに自分の殻に閉じこもります。悲しい偏見を抱いているのです。

女秘書の私は、狭いカウンターの非モテ系男性二人の間に座りました。両側から動揺が伝わってきます。男性二人は恐怖のあまり椅子を動かし私から身体を離そうとしましたが、椅子は固定されているので無駄です。私がメニューを取ろうとしたとき、うっかり財布を左隣の男性の太ももに落としてしまいました。私は、ごめんなさいと言って財布を拾おうとしましたが、相手の男性はまるで財布に電流が流れているかのように身を捩らせてしまい、財布は地べたに落ちてしまいました。動揺しまくったこの男性は、自ら財布を拾うとかすみませんと声をかけるとか、そういうことはしません。というより出来ないのです。それが非モテ系男子の悲劇です。

 

ですが私は、非モテ系の男性が大好きです。

同志として最も居心地が良いのです。文系で、インドアで、女性経験がなくて傷つきやすい男の子が大好きです。彼らとアニソン限定のカラオケに行ったり、ボードゲームをしたり、最新のアニメや漫画の話を聞いたり、そうしてうさぎのようにほのぼのと過ごす時間が幸せなのです。

そんな愛すべき非モテ系ですが、ココイチ事件のように、暗い影がのぞくことがあります。彼等と私には共有出来る物は多いですが、共有出来ないものもあり、その共有できないものが、致命的な傷を彼等に与えるようなのです。それは、非モテ系が社会から強いられる男性像です。男らしくせねばならない、家を継がねばならない、稼がねばならない・・・・そういった男性であるが故に社会から与えられるプレッシャーが、彼らを押し潰しているのです。私は多様な世界を掛け持ちしているので、性の特徴とか役割とかそういったことはよく分かりません。ですが非モテ系の彼らはそうではなく、寧ろ狭小な世界のみに生き、男性であることの圧力に黙って堪えていると思われます。そして私は、愛すべき非モテ系男子を苦しめるこの圧力を、ひどく憎みます。

 

男らしくすべきなんて、誰が決めたのですか。

誰かを傷つけている訳ではない生き物を、無下に敗者扱いするなんておかしくないですか。筋肉が足りなくても、会話が出来なくても、行動力が無くても、それは彼らの罪ではないのです。しないのではなくて、出来ないのです。私達だって、ウサインボルトのように走れと言われても無理じゃないですか。同じように、非モテ系男子にスマートな会話や器用さを求めても無理なのです。出来る人がしないのであれば、そこには不快感を覚えます。ですがしたいのに出来ない人に対して、それを責めるのは間違っています。

 

非モテ系男子と対峙した時、彼らの緊張を解く為に、よく、【私の名前はガンダムのカミーユ・ビダンから来ています】と言います。すると、それまで人見知りで俯いていた非モテ系男子が、顔を挙げて目を輝かせます。そういうときの彼らの表情は無垢な子供のそれと同じで、とても愛らしく美しいものです。この表情が、曇ることなくいられる世になればと願うのであります。

※情報は2017.1.6時点のものです

カミーユ綾香

北九州市出身。在日韓国人と中国残留孤児の多く住む多国籍な街で育つ。 警固インターナショナルの代表として、十数言語による語学スクールとインバウンド支援の多言語ウェブサイト制作会社を運営する一方、難病の重症筋無力症とパンセクシュアルというセクシュアリティの当事者として、様々なマイノリティの生きやすい社会を目指して精力的に活動中。http://www.kego-international.com/

この記事もおすすめ