九州紀行小説 “Q子の休日” vol.8/関門エリア・門司港編「海峡の歴史とロマンに思いを寄せて」

門司港駅前のカフェでちょっと遅めのランチをいただいたあと、再び街歩き。

関門海峡を右手に見ながら歩いていたら、目の前に2階建ての長く伸びた建物が現れた。

その入り口には『旧大連航路上屋』と書かれている。

「“じょうおく”って何のこと?」

敏腕フリーライターの彼氏・ミツグくんに尋ねてみると・・・。

「これは貿易関係の専門用語で、“うわや”と読むんだ。税関の中で一時的に荷物を保管する場所のことで、この建物の正式名称は『門司税関1号上屋』。昭和4年(1929年)に竣工。当時、この門司港と中国・大連を結ぶ定期航路があって、そのいわば“国際ターミナル”として利用されていたことから『大連航路上屋』という呼び名が定着したそうだよ。」

立て板に水とはこのことで、家で暗記してきたのではないかと思わせるような流れるような口調で解説が返ってくる。さすが敏腕フリーライター。

二階に上がると関門海峡に面して長く伸びた廊下が出現。

これはアール・デコ様式といってヨーロッパやアメリカを中心に1910年代から30年代にかけて流行した建築様式。左右対称の幾何学模様や直線を多用したスタイリッシュで都会的な印象が特徴的で、19世紀末から20世紀初頭に流行した、草花や樹木など自然の中にある優美な造形をデザイン化したアール・ヌーヴォー様式とは対照的。それにしても、欧米で流行していた建築様式がリアルタイムで反映されているなんて、この門司港という街が当時どれだけ栄えていて、世界と通じていたかを教えてくれる重要な文化遺産だね・・・。

すかさず入ってくる解説コメントに思わず圧倒される。

いまから90年近く前に、この建物を拠点にして国境を越えた人や物の交流が生まれていたなんて、なんだかロマンチックだわ・・・。

そんな感傷的な思いに浸りながら、あてもなく街を歩いていると、なにやら小気味よく熱弁を振るう男性の声が聞こえてきた。

近づいてみると、なんともレトロな雰囲気の紙芝居屋さん。木でできた枠と台は、かなりの年季で、角が丸くなっている。お題目はご当地ならではの“巌流島の決戦”。そのリズミカルで熱の入った語り口にしばし聞き入る。

観覧料100円。そのお代とひきかえに水飴をもらう。

私は水飴初体験。博学多才なミツグくんは慣れた手つきで水あめを練り始めた。

 

すると透明だった水飴が真っ白に。

空気を含んで硬くなった水飴は甘みと香りが増した感じ。二人で並んで水飴を舐めながら街歩きを再開する。

大正6年(1917年)竣工の『旧大阪商船門司支店』。ドームや小塔、屋根窓を配した銅板葺きの屋根や赤煉瓦と白い花崗岩の外壁。東京駅にそっくりだね。たしか東京駅の竣工は大正3年(1914年)だから当時流行りの建築様式だったことはわかるけど、建築設計ソフトや重機がない時代にこれだけのものを造るって、途方もなく大変だったんじゃないかな・・・。

ミツグくんの熱のこもった実況解説を聞きながら、門司港駅に到着。1914年(大正3年)竣工の門司港駅の駅舎は現在保存修理工事中。工事終了は2018年3月末とのこと。鉄道駅として初めて国の重要文化財に指定されたこの気品漂う名建築がどんな感じで蘇るのか、乞うご期待だ。

本州最果ての地から九州最果ての地への取材旅行もこの場所で幕を閉じる。

いつもながらの涙あり笑いありの珍道中を思い出しながら、「また来たいね」という言葉を置いて、私とミツグくんは折り返し運転の普通列車に乗り込んだ。

<九州紀行小説 “Q子の休日” vol.4~8/関門エリア編 完> 

【参考サイト】

■門司港レトロインフォメーション

http://www.mojiko.info/

※情報は2017.2.24時点のものです

AKASAKA BOY

謎のライター

1978年福岡市赤坂生まれ。福岡の街の魅力を小説形式で発信中☆

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