福岡グルメ小説“N氏の晩餐”/祖原「COQUINES(コキンヌ)」の華麗なるフレンチの世界

通勤路。下向き加減で歩いてて、鼻先をくすぐる香りにふと顔を上げると梅の花がほころんでいた。

春の訪れ。何となく心が温かくなる。

と、そのときバッグの中でスマホが小刻みに揺れた。画面を見ると月に一度の美食の友“N氏”からのお誘いメール。まさに“春到来”。思わず笑みがこぼれる。

この日のご指定は早良区祖原、早良街道に面したフレンチのお店。窓から外にもれる灯りが何とも温かい。扉を開けると、手前に4人掛けのテーブルが2脚と2人掛けのテーブルが1脚、その奥に一直線のカウンター8席。カウンターに面したオープンキッチンでは3人の男性スタッフがきびきびと立ち動いている。

7時前だというのにテーブル、カウンターともに満席で、カウンターの一番手前の席だけが空いている。そしてカウンターの手前から2つめの席には、いつものように真っすぐに伸びた背筋と涼やかな横顔のN氏の姿があった。

シャンパンで乾杯。

カウンターの隅にずらりと並んだワイングラス。そのまばゆい輝きに胸が高鳴る。

一皿目は国産水牛のモッツアレラチーズとトマトのサラダ。

国産のモッツアレラなんて当然初めて。口に入れると、ふわっとした食感に驚かされる。プリプリした食感の外国産と比べて柔らかく、味もすっきりしている印象。添えられたトマトはリンゴのようなフレッシュな甘さがあり、淡白なモッツアレラチーズと絶妙のマッチング。

ここでブルゴーニュの白をボトルでオーダー。プラムのような濃密な香りのあとブドウの旨味が口の中に広がり、後味すっきり。優雅で優美な食中酒。

続いて登場したのが平戸直送のヒラメをつかったカルパッチョ。添えられた海老、ホタルイカ、野菜が織りなす色彩のハーモニーが美しく、思わず声が出てしまう。なんだか皿の中から音楽が聞こえてくるよう。

ヒラメのぷりぷりとした食感と濃厚な旨味が、力強いブルゴーニュの白と絶妙に合う。

次なる皿は豚タン・アイスヴァインのパネ。

“パネ”というのはパン粉をつけてたっぷりの脂を使って焼いた料理のこと。サクッとした衣の下にはトロッと煮込まれた豚タンが隠れていて、柔らかな酸味と甘さのタルタルソースがコクのある肉の味を優しく包み込む。

ここでボトルが空き、ラングドックの赤をグラスでいただく。

ハーブのような香りに濃厚な旨味、そして晴れた日の芝生のような清々しい後味がふわっと残る感じ。艶やかなルビー色がグラスに映えている。

メインは鴨肉のコンフィ。

“コンフィ”とは肉を低温の油脂でゆっくり煮る調理法。出来上がったものをそのまま冷やすと油脂が凝固して肉の長期保存が可能になるため、いわば“保存食”として誕生。肉の旨味を閉じ込めたまま柔らかく仕上げられるという点もポイント・・・。

先ほどの“パネ”と同様に、“コンフィ”という言葉に反応した私のハテナ顔を見るや、すかさずN氏の解説が入る。

ほろほろと口の中でほどける鴨肉は絶妙な塩加減で、濃厚な赤ワインにぴったり。付け合わせのフライドポテトも見事で、表面のサクサク感と中のホクホク感が最高。皿へ伸びる手が止まらない。

そして、デザートに添えられて供されたのは、ちょっと赤味がかった琥珀色の液体。

なんだろう…と思いながら、グラスを持ち上げると、思わずクラッとするような強烈な甘さと瑞々しい果物特有の香りが立ち上る。

フランス・ブルゴーニュ地方のニュイ・サン・ジョルジュ村でつくられる“桃のリキュール”で、フランス語では“クレームド・ペシェ”。パリの高級菓子店でも使われている逸品で、お菓子作りに使われるのだから、食後酒としてデザートに合わせるのもちろん“アリ”。出来立ての“クレームド・ペシェ”はもっと薄くて鮮やかな色をしていて、ある程度の年数寝かせないと、このような色にはならない・・・。

心地よい酔いがその声をどこか遠くのものにする。オレンジ色の灯りに包まれた空間。フランス、パリの街角にいるような不思議な感覚。そして、昔見た映画のヒロインのように、クレームブリュレの表面をスプーンでつつきながら、私は無上の幸福感に身を委ねていた。

※取材コーディネート:有限会社フィールドワーク

※情報は2017.3.1時点のものです

COQUINES(コキンヌ)

住所福岡市早良区祖原3-4 川島ビル
TEL092-846-8410

AKASAKA BOY

謎のライター

1978年福岡市赤坂生まれ。福岡の街の魅力を小説形式で発信中☆

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