九州紀行小説 “Q子の休日” vol.9/福岡県福津市「津屋崎千軒の古民家を味わう」

年下のボーイフレンド・ミツグくんは敏腕紀行ライター。天神の百貨店に勤める私は、たまに気分転換したいとき、休みの日を合わせてミツグくんの取材にお供させてもらっている。

今日は朝10時に博多駅中央改札口で待ち合わせ。切符を渡され改札をくぐり、在来線の快速列車に乗って30分足らず。

降り立ったのは「福間駅」。駅舎や駅の周りの雰囲気も良くて、福岡市と北九州市の中間にある“住みよいベッドタウン”という印象を受ける。

駅前のバス停からバスに乗り込む。

15分ほど揺られると、車窓一面に海が広がってくる。

終点の「津屋崎橋」というバス停で降りるや、いつものように下調べ万全のミツグくんは、バス停の向かい側に伸びる路地に入り込んでいく。

一軒家がならぶ路地を進むうちに、雰囲気のある木造建築が次々と目に入ってくる。

突き当りには高い煙突が。何だろうと思って近づくと・・・。

軒先にかかった杉玉が示すとおり、そこは酒屋さんだった。

中に入ってビックリ!

吹き抜けの高い天井に直径1メートルはあろうかという巨大な梁(はり)が縦横に走っている。

ここは、明治7年創業の酒屋さんで、この建物も100年以上の歴史があるんだって。この梁に使っている木は塩木(しおぎ)といって、海水に漬けた松の木を乾燥させたもの。そうすることで防腐効果や防虫効果が得られるらしい。たしかに100年前の木が今でもこんなに美しい形で残っているのだから昔の人の知恵には驚かされるよね・・・

ミツグくんの解説、言い得て妙。ずっと上を見上げているので首が相当きついんだけど、目を離すのがもったいないような気持ちになる。

この地区にある一つ一つの古民家が違った形をしていて、でも共通するのはすべての建物が何ともいえない風格を漂わせていて、いつまでも街のなかをぐるぐるしていたい気分。

こちらの古民家は、曜日によって違ったお店屋さんになるみたい。面白いシステム!

ちょうど時間はお昼どき。

はためく白い暖簾、木の立看板にお品書きが並ぶ、なんかいい感じのお店を発見。

躊躇なく中へ。

土間で靴を脱ぎ、座敷に上がる。ちゃぶ台に腰を下ろすと、超が付くほど“マメ”なミツグくんが、さっそくセルフサービスコーナーからお新香を調達してきてくれる。

ちゃぶ台に置くや、糠(ぬか)漬けの良い香りが立ち上る。

ひとくち口に入れると、ほどよい酸味と糠の風味が野菜をしっかりと包んでいて、思わず唸ってしまう美味しさ。

「百年前の糠床を少し分けていただいて混ぜたら、全く別物のようになったんですよね」

注文を取りに来られた店主の女性が、優しい笑顔で教えてくれた。百年の歴史、すごいなあ・・・。

古民家の木のぬくもりと店内に流れるクラシックの響きに癒されていると、注文した品が登場。

アルミの鍋に入って出てきたのは、肉卵うどん。

黄金色に輝く出汁をひと口すする。

!!!

初めての味。いりこの旨味の中に、ごく微かな渋みや苦みや香ばしさが感じられて、一言では表現できないけど、思わず「これぞ大人の味!」と言いたくなるような味わい。

あらためてお品書きを見ると、「香川県伊吹島産の最高級『大羽いりこ』だけをたっぷりと使った、ここでしか味わえない一品」とある。

看板に偽りなし!

食後に登場したのは美味しそうなおはぎ。右側のおはぎには、何やら意味ありげにクルミの小片がのっている。

ミツグくんにすすめられるがまま、まずは左側の何ものっていないほうからいただく。

最初にもち米の甘みが口の中に広がって、そこに粒あんの優しくて控えめな甘さが追い打ちをかけてきて・・・。思わず頬がゆるんでしまう。何個でも食べられそうな感じ。

そして、意味ありげなもう一つのおはぎを割ると、もち米にほんのり色がついている。

口に入れると、まず飛び込んでくるのは生姜の香りと醤油の風味。そのあと感じる粒あんが甘いこと甘いこと。これなら1個でも十分満足かも。もちろん粒あんは同じものだろうから、人間の味覚って本当に不思議!

ティーカップから立ち上る極上の紅茶の香りに包まれながら、ミツグくんと私はにっこりと微笑み合って、最後のひと口を同時に頬張った。

通りに面して立てられた硝子戸の外では、潮風に吹かれた陽光がキラキラと嬉しそうに揺れていた。

【参考サイト】

■福津観光ナビ・ふくつぶらり

http://fukutsukankou.com/

■「惣菜ランチ・和カフェ せんげんや」Facebookページ

https://www.facebook.com/tsuyazaki.sengenya/

 

※情報は2017.3.13時点のものです

AKASAKA BOY

謎のライター

1978年福岡市赤坂生まれ。福岡の街の魅力を小説形式で発信中☆

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