志ある者は、平清盛を知るべきです

志ある者は、平清盛を知るべきです。

起業家、逆境にある者、マイノリティには清盛を推します。彼は最強の叩き上げです。平家物語は、祇園精舎の冒頭文のあとは、清盛が貴族どもに馬鹿にされるシーンから始まります。卑しい出生だと罵られます。醜い容姿(斜視)だと嘲られます。そこから清盛は成り上がったのです。成り上がり過ぎて盛者必衰しましたが、ともあれ成り上がったのです。

心ない人に意地悪をされたとき、この平家物語を思い出します。侮辱に耐える清盛の姿を想像し、蔑まれたことへの怒りや悲しみを、パワーへと昇華し、成り上がってやろうと決意を新たにするのです。

 

先日ふと、厳島神社に詣でたいと思いました。厳島神社は平家一族のお社として有名です。弁財天様もおられます。しかも日本三大弁財天のひとつであられます。手帳を見ると、10日後に【林檎会キャンセル】と書いてありました。林檎会というのは、椎名林檎と着物好きが集う会で、私は幹事をしています。今月は幹事のミスで開催がキャンセルになりました。なので、林檎会予定だった日にちがぽっかり空いています。そうだ、この日に着物で厳島に行こうと決めました。本来は一人旅を好むのですが、林檎会の友人を誘いました。友人も弁天様が好きだからです。

 

博多駅で友人と合流しました。

友人の名古屋帯をみたとき、はっとしました。妖艶な揚羽蝶の柄だったのです。揚羽蝶は、平家一族の家紋です。偶然とはいえ揚羽蝶の帯の友人と平家の厳島神社に詣でるというのは、感慨深いものがありました。

広島に到着した頃、友人の顔色が悪いのに気付きました。一度休憩しようかと提案しましたが、大丈夫とのことでした。荷物をホテルのフロントに預け、広島駅から電車で宮島に向かいました。すると、電車が進むに連れて友人の顔色が真っ青になっていきました。これは有事です。友人は、座っていることも難しくなりました。座ると帯で胃が圧迫され、吐き気を催すのです。冷や汗も出てきました。最寄り駅で下車しました。荷物はホテルにある為、着替えの洋服が無く、帯を解くことが出来ません。友人は、片手でホームの壁にもたれ、片手でビニール袋を握りしめています。私はそれを、少しだけ離れたところで黙って見つめずに見守りました。あまり傍で見られたり話しかけられるのも嫌だろうと思ったからです。友人は小声でごめんなさいと言います。胸が痛みます。少し歩けるようになってから、一駅ずつ途中下車しながらホテルへ戻りました。事情を話してチェックインの時間を早め、彼女のスーツケースを掴み、部屋へと急ぎます。そうして彼女を部屋にぶち込んで、【何も考えずとにかく暫く寝て起きたら連絡しろ】と伝えて素早く去りました。

私に出来ることは限られていますが、気を遣わせたくありませんでした。暫くして、彼女からメールが入りました。もう少し休むとのことでした。私は、宮島に行ってくるからゆっくり休むように伝え、再度ひとりで厳島神社へ向かいました。

 

お宮さんを詣で、弁財天様にもご挨拶をしました。幸せでしたが、気になるのは友人の体調です。黙って遠くから回復を祈りました。すると、本人からメールが入りました。体調がかなり回復したので、こちらに向かうとのことでした。ああ良かった!私は安堵し、彼女の到着を待ちました。待ちながら周りをみやると、祭りの後の片づけをしています。え、今日は祭りだったのかと思い見渡すと、ポスターが数枚貼られていました。実はその日、年に一度の清盛祭りが行われていたのです。私が到着した頃は、終わったばかりでした。そこで私は彼女の帯を思い出しました。あの妖艶な蝶。平家の家紋にそっくりで、道中友人を締め上げて苦しめた蝶。そういえば彼女の様子が変わったのは、新幹線が下関を通過した辺りでした。スマホを取り出し、ウィキペディアで【壇ノ浦の戦い】を調べました。壇ノ浦、つまり今の下関で平家が滅亡した日です。その日はなんと、約830年前の前日だったのです。

 

奇妙にも重なった偶然。到着した友人は、洋服に着替え、すっかり元気になっています。先程の苦悶の疲れがややあるものの、顔色は元に戻り、ごはんも食べられるようになっています。数時間前まで真っ青だったのが嘘のようです。良かった良かったと安堵して、再びお宮さんと弁天様にご挨拶をしました。談笑しながら、このような偶然が重なっているから、もしかしたら今日来るときに壇ノ浦から平家の亡霊を何人か連れてきたかもねと言ったのですが、実は彼女は非常に霊感が強い体質だということが判明し、冗談ではなくなってしまったのであります。

 

次の日も厳島にやってきて、二人とも元気に過ごすことが出来ました。美味しいものを頂き、普段は見られない蘭陵王の舞を間近で拝めました。ですがなにより嬉しかったのは、二日目は友人も着物で来られたことです。

蘭陵王の舞

蘭陵王の舞

 

健やかに戻った友人。神様ありがとう。

健やかに戻った友人。神様ありがとう。

和服を自分で着て、お社を参詣するというのは、美しく誇らしい行為だと信じます。背筋が伸び、所作が変わり、国や先祖への思いも深まります。厳島の神様にお会いするのは八年ぶりでしたが、以前お会いした時は、今のような余裕や考えはなく、幸せを願う人々も少なかったように思います。着物をひとつ覚えるにしても、人との離別や交わりにしても、そういった経験が増えるのであれば、老いることは誠にありがたいと思うのです。この八年間の間に失ったものや悔いることもありますが、今、得ているものと比べれば、過去への執着心はおのずと流されてゆきます。そういう健やかな心で厳島に来られたことも、私に与えられている幸福のひとつなのだなと認識するのでありました。

※情報は2017.4.4時点のものです

カミーユ綾香

北九州市出身。在日韓国人と中国残留孤児の多く住む多国籍な街で育つ。 警固インターナショナルの代表として、十数言語による語学スクールとインバウンド支援の多言語ウェブサイト制作会社を運営する一方、難病の重症筋無力症とパンセクシュアルというセクシュアリティの当事者として、様々なマイノリティの生きやすい社会を目指して精力的に活動中。http://www.kego-international.com/

この記事もおすすめ