福岡グルメ小説“N氏の晩餐”/大手門「ごはんや 飯すけ」の極上魚定食

今年の桜はとても待ち遠しい桜だった。だからだろうか、今まで見たなかで一番きれいな桜だったような気がする。

満開になるとすぐに散ってしまう桜は儚(はかな)いという人は多い。だけど私はそのあとの新緑の季節が大好きだ。そして、いよいよその季節がやってきた。

快晴の休日。大濠公園から舞鶴公園、そして護国神社へ。空のブルーと木々のグリーンのコントラストが絶妙。

護国神社の鳥居をくぐり、けやき通りに向けて歩を進めると、二階建ての長屋風の建物があり、その一画に小さな立て看板が。近づいてみると、階上のギャラリーで開かれている個展の案内が貼られていた。

細くて急な階段を吸い込まれるようにして上る。木の扉を開くと、小さなギャラリー空間の左右二面のガラス窓に、まばゆいばかりの新緑が広がっている。そのガラス窓と白い壁面に、鮮やかな色づかいの作品が整然と並ぶなか、可愛らしい黒のワンピースを身にまとった小柄な女性が私を迎えてくれた。佐野直さんという熊本在住の作家さんで、福岡では今回が2回目の個展なのだそう。

その色彩豊かな表現について尋ねてみると、アクリル絵具を3層に塗り重ね、最後に油絵具で仕上げを行うという独自の点描なのだと教えてくれた。たしかに、遠目からはきれいな風景画なのだけど、近づいてみるとキャンバスの上に赤、青、黄、緑といった原色の小さな点が無数に広がっている。

その魅惑的な美しさに取りつかれ、作品の一点一点を食い入るように眺めていたとき、階段を上がってくる足音が聞こえ、背後の扉が乾いた音を立てて開いた

佐野さんと親しげに挨拶を交わす男性の声。どこかで聞いたことがあるような声だと、振り返ってみて、びっくり。

そこには月に一度の美食の友・N氏が立っていた。

佐野さんとお別れして、N氏と一緒に階段を下りる。

最後の一段を下りたところで、一緒にランチでもいかが、というお誘い。もちろんOK。断る理由なんてあるわけない。

護国神社の前でタクシーを拾い、大濠公園の脇を抜け、荒戸方面へ。

大手門の裏路地でタクシーを降りる。

一歩店内に入ると左手にカウンター席、右手にテーブル席が並び、カウンターの向こうのオープンキッチンでは、男性の職人さんが一人きびきびと立ち動いている。木を基調とした清潔感あふれるたたずまいで、スタイリッシュなのにすごく落ち着いた雰囲気。

まずは、昼ビール。セルフサービスのお新香と一緒に。

ウオーキングと美術鑑賞のあとのビールはまた格別。きめ細かな泡が目にも美味しい。

私はたくさんあるランチメニューの中から海鮮丼をチョイス。

数えてみると、8種類の海鮮がてんこ盛り。迷った挙句、最初のひと口はてっぺんのウニイカを。

もっちりしたイカの食感にトロッとしたウニがまとわりついて絶妙のコラボレーション。個性の違う甘みが互いに引き立て合って、言葉を失う美味しさ。

N氏は鮭の粕漬焼。すすめられるがまま、ひと口いただく。

酒粕の風味とコクが鮭の脂を包み込んで、優しい甘さが口中に広がる。すかさずご飯を口に運ぶとこれがまた絶品。いままで食べたご飯の中で一番おいしいかも。島根県の「つや姫」という銘柄だそう。味噌汁も出汁と味噌の風味が格別で、ご飯と味噌汁だけでも「大御馳走」という印象を受ける。

あっという間に目の前の丼がからっぽになり、食後のほうじ茶をゆっくりとすする。

口の中に広がる香ばしい味わい。そして目をつぶると、緑に包まれたギャラリーの中で光り輝く風景たちが、瞼の裏にはっきりと浮かんできた。

今日という日、一生忘れないかも。そう心の中でつぶやいて、私は満足のため息をふっともらした。

※取材コーディネート:有限会社フィールドワーク(http://fieldwork.ecweb.jp/stance.html

※特別協力:佐野直さん(http://pointillism.wixsite.com/nao-sano

 

※情報は2017.4.27時点のものです

ごはんや 飯すけ

住所福岡市中央区大手門3丁目3-24
TEL092-725-3366
URLhttps://r.gnavi.co.jp/mtc01emz0000/

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