九州紀行小説 “Q子の休日” vol.11/久留米市「石橋文化センターで新緑と芸術に包まれて」

年下のボーイフレンド・ミツグくんは敏腕紀行ライター。天神の百貨店に勤める私は、たまに気分転換したいとき、休みの日を合わせてミツグくんの取材にお供させてもらっている。

今日の待ち合わせ場所は、西鉄福岡天神駅。

天神から特急で30分、といえばもちろんこの街、筑後地方の中心都市・久留米。

2階の電車ホームからエスカレーターで1階に降りると、広い広いバスターミナルが。いくつもの行き先案内板が天井から下がっていて、「佐賀」や「八女」という文字も見える。そんな遠くまで行くバスが出てるんだ、と思わず旅情をそそられる。

路線バスに揺られること5分足らず。「文化センター前」というバス停で下車。

中央に噴水のある洋風庭園の向こう側にレンガ色の建物が見える。

近づいてみると美術館。昨年11月にリニューアルオープンした「久留米市美術館」だとミツグくんが教えてくれる。

ミツグくんのお目当ては、開催中の展覧会。タイトルをみると「川端康成 美と文学の森」とある。さっそく中へ。

一時間後、ミツグくんと私は、文学と芸術の世界を堪能し、胸いっぱいで外へ出てきた。

美術館の裏手には広大な日本庭園が。その真ん中にある池のほとりを、今しがた見てきた展覧会について語り合いながら歩く。

ノーベル文学賞作家・川端康成が美術コレクターだったとは知らなかった。縄文時代の土偶、古墳時代の埴輪から、国宝に指定されている浦上玉堂や与謝蕪村、池大雅の墨画、さらには東山魁夷や草間彌生まで。自らの感性の赴くままに作品をコレクションしていたようだね。

美術作品の判断基準は「好きか、好きでないか、惹かれるか、惹かれないか、よいか、よくないか」だという川端本人のその言葉がすべてを物語っているよ。

それに、いくつか展示されていた直筆原稿が、すごく興味深かった。

30代後半に書いた「雪国」の筆跡と69歳でノーベル文学賞を受賞した直後に書いた「美しき日本の私-その序説」の筆跡。全く別ものだったよね。これほどまでに人って変わるんだ、って思ったし、川端康成という偉大な文豪を一人の人間として見ることができたような気がした・・・。

ミツグくんの話を聞きながら、そんな見方もあるんだ、と驚く。芸術鑑賞って、何だか堅苦しく考えていたけど、見たまま、感じたままでいいんだと再認識させられる。

それにしてもすごく立派な庭園だね…。そうつぶやくと、待ってましたとばかり、ミツグくんの解説が入る。

この3万平方メートルの敷地に、美術館と庭園、そして図書館と文化ホール、文化会館を整備して久留米市に寄付した一人の実業家がいた。その名は石橋正二郎。1889年(明治22年)、着物や肌着などをあつらえる仕立物屋の二男として生まれ、17歳のとき、兄とともに家業を継ぐ。注文を受けてから商品を仕立てるという非効率な業態に将来性はないと見切りをつけ、商品を足袋(たび)に一本化。工場を建設し、機械化を進め、低価格・高品質の足袋を量産し国内トップブランドへ。さらには、足袋の裏にゴム底を糊付けした「地下足袋」を開発。耐久性や機能性の低い草鞋(わらじ)に代わり、炭鉱や工場で働く作業労働者にまたたく間に広まった。また、同時期に製造を始めた布製ゴム底靴、いわゆるズック靴も下駄や草履に代わって学生らに広く普及。そして、1930年代、ゴムの加工技術を活かして取り組んだのが、自動車用タイヤの開発。それが今や世界に名をとどろかせるタイヤのトップブランドの礎。石橋氏の苗字「ブリッジ」と「ストーン」から「ブリジストン」という社名がつけられた。企業経営だけでなく文化事業でも社会に貢献。『世の人々の楽しみと幸福の為に』という石橋氏の理念のもと、この石橋文化センターは開園された・・・。

目の前には満開の藤棚、池の向こうには美の殿堂が悠然としたたたずまいを見せている。まるで絵画のような風景。ある一人の実業家の郷土愛、そして文化に対する熱い思いに、胸がいっぱいになる。

すっかり文化的なひとときを堪能し、根が単純な私たちが次に考えることは、もちろん食べること。

駅に戻って遅めのランチをとることに。

ミツグくんの予習と分析に従い、駅ビルの中にあるお寿司屋さんの暖簾をくぐる。店頭のショーケースに並んだ色とりどりのサンプルが食欲をそそる。

ボリューム満点の “手巻きセット”登場。お好みの手巻き寿司3本とにぎりが4カンで930円は超お値打ち。海苔のパリッとした食感と風味が最高。イカ・マグロ・カンパチの手巻きチョイスも大正解だった。

「いつかまた来ようね」というミツグくん。

「そうだね、バラの花きれいだったね」という私。

まぶたに浮かぶのは、美術館の前庭で咲き誇るバラの花たち。その燃えるような赤に、ともに芸術を愛した偉大なる文学者と実業家の情熱を思った。

【参考サイト】

■石橋文化センター公式HP

http://www.ishibashi-bunka.jp/

■ファンファン福岡・特集「国宝も東山魁夷も草間彌生も…川端康成のコレクションがすごい!久留米市美術館で展覧会」

https://fanfunfukuoka.com/event/83838/

※情報は2017.5.3時点のものです

石橋文化センター

住所福岡県久留米市野中町1015番地
TEL0942-33-2271
FAX0942-39-7837
URLhttp://www.ishibashi-bunka.jp/

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AKASAKA BOY

謎のライター

1978年福岡市赤坂生まれ。福岡の街の魅力を小説形式で発信中☆

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