【誰の意向も汲まない書評】星の王子様とバラと狐

星の王子様、最低の男です。

あの有名な、黄色い髪をふわふわさせた星の王子様です。現実世界でもそうですが、可愛い草食動物のような子に限って、中身は猛禽類だったりします。星の王子様はその典型だといえます。

 

星の王子様の物語は、砂漠に不時着したパイロットが王子様に出会うところから始まります。

王子様は羊の絵を欲しがります。パイロットは故障した飛行機の修理に忙しいのですが、羊の絵を描いてあげます。王子様は、羊が欲しいのです。羊を自分の星に持ち帰り、バオバブの芽や雑草を食べさせたいのです。ただ、ひとつ心配ごとがあります。王子様の星にはバラが一輪咲いているのですが、羊が雑草と一緒にバラを食べてしまわないかということです。羊とバラの関係が心配な王子様は、パイロットに何度もそのことを尋ねます。王子様のしつこさに耐えかねたパイロットは、そんなことはどうでもいい!と言い放ちます。すると、王子はギャン泣きします。ギャン泣きしながら、こう言います。「もし誰かが、幾千の星の中のたった一つの星にある一輪のバラを愛しているとするなら、その人は夜空を見上げるだけで幸せになれるんだ。星々のうちのどこかに、自分のバラがあるのだと思うんだ。もし羊がバラを食べてしまえば、そういう思いは全て打ち砕かれる。夜空の星が全部なくなってしまうのと同じ気持ちになる。それなのにお前は、羊とバラの問題がどうでもいいというのか!」。

 

王子様、メンヘラです。

突然ギャン泣きされたら面倒くさいです。取り敢えず、バラが好きな気持ちはよく伝わります。でもそれだけバラが好きなのに、なぜ彼は今地球にいるのでしょうか。理由はなんと、バラとのコミュニケーションがうまく行かずに、逃げだしたからなのです。王子もメンヘラですがバラも面倒くさい奴なのです。すきま風がいやだとか夜はガラスで覆ってくれとか、もう何かと注文を付けるのです。そんなバラに対し、王子様は愛し方が分からなくなってしまい、逃げ出したのです。ですが逃げ出す際、バラは王子様に「あなたのことを愛している」と言います。自尊心の高いバラが自らそんなことを言うなんて、よっぽどのことです。なのでここで王子様も折れて逃げ出すのをやめればいいのに、やっぱり王子は逃げ出しました。そして、地球で夜空を見上げながらバラを心配しているのです。まったく、馬鹿な王子であります。

 

バラに未練たらたらの王子。

彼の物語が続くにつれ、重要人物が現れます。それが狐です。狐が現れたとき、王子はナンパします。黄色い髪をふわふわさせながら狐に、「僕と遊んでよ。僕ひとりで寂しいんだ・・・・」と言います。狐は当初、そんな王子を断ります。「まだ君と親しくないから、遊べないよ」と言います。なかなか身持ちの固い狐です。そんな狐に対し、王子は言葉巧みに口説いていきます。結局ふたりは仲良くなり、絆が生まれ、互いが特別な存在になります。と、ここで王子は重大なことに気付きます。狐と時間を過ごしたことで、王子様にとって狐は、多数の中の一匹ではなく、唯一の狐となりました。同じように彼のバラも、彼自身がバラに時間を費やしたため、他のバラとは違う、特別なバラになっていたのです。沢山のうちのひとつではなく、かけがえのない存在へとなっていたバラ。そう悟り、王子はバラへの思いを一層深めるのでありました。

そう、やっぱり王子はバラが好きなのです。そして口説き落とした狐を捨てて、去るときが来ました。狐は、ひどく悲しみました。それはそうでしょう。そんな狐に対し、王子は、「お前が悪いんだよ。そんなに悲しむなら、最初から仲良くならなかったらよかった!」と言います。クズです。王子は、クズです。ですが狐は、逆上することもなく、王子をこう諭します。「いや、君と仲良くなって良かった。ぼくはこれから小麦畑を見るたびに、君の黄色い髪を思い出すことが出来る。小麦畑を見るたびに幸せな気持ちになれる。だから君と出会って良かったんだよ」と。

 

この物語を読み返して、やはり狐でありたいなと思うのです。

王子はもう最低すぎるのですが、好きになる相手は、選べないじゃないですか。狐だって自ら最低のクズを好きになろうとしたわけではないですし、そもそも出会ったときには断っているし。それでもクズを愛することを選んで、想定通りもしくは想定外に傷つけられたとして、この狐のようなことが言えると最高だと思うのです。色恋沙汰を超越した愛の勝者だと思うのです。これが何度目かの星の王子様の読書から、私が学びえたことなのでありました。

 

もし周りに、クズに恋をして、だけど選んでもらえなかった哀れな子がいたら、そっとこの物語のことを教えてあげてください。そして、どうかその人が、狐のような愛の勝者になれますように。

※情報は2017.5.10時点のものです

カミーユ綾香

北九州市出身。在日韓国人と中国残留孤児の多く住む多国籍な街で育つ。 警固インターナショナルの代表として、十数言語による語学スクールとインバウンド支援の多言語ウェブサイト制作会社を運営する一方、難病の重症筋無力症とパンセクシュアルというセクシュアリティの当事者として、様々なマイノリティの生きやすい社会を目指して精力的に活動中。http://www.kego-international.com/

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