短気なおばあさんに「共謀罪」を説明するための考察

北九州人の口論は、仁義なき戦いです。

先日、母と友人が福岡に遊びに来ました。三億円の強盗現場を見学するという目的です。強盗現場を観光して、近くの有名な鯛茶漬け屋さんで昼食をとりました。そのときに銀行員の対応について、母と友人の意見が分かれました。母は、三億円もの金額の場合は駐車場まで銀行職員が付き添うべきだと主張し、友人は、銀行職員の責任はあくまで客が銀行を出るまでなので、それ以降は本人の自己責任だと反論しました。母もその友人も北九州出身なものですから、本人同士はいつもの話し方でも、傍から見るとやくざの抗争です。私は黙々と茶漬けを啜っていたのですが、ふたりのチンピラめいた水掛け論を聞きながら、ふと面白いことを思いついたのです。

 

北九州出身の母は、よく言えば情に厚く悪く言えば短気で感情的です。好奇心が非常に旺盛で、物事を何でも知りたがるのですが、なにせ短気なものですから、ちょっとややこしくなるとすぐに怒ります。そんな母に、大紛糾している共謀罪の説明をするには、どうしたらいいだろう。シンプルに、偏らず、65歳の散漫極まりない集中力を持続させて話を聞かせるには、どうすればよいだろう。ということで、私なりに説いてみることにしました。

 

共謀罪はみんなで集まって悪さをしようとしたら捕まる法律です。今は、悪さをしたら捕まる。コンビニに放火したら、捕まる。放火したから、捕まるのです。一方、共謀罪は、悪さをしようとしたら、捕まります。コンビニに放火する計画を立てたら捕まる。つまり放火する前に計画したから、捕まるのです。

 

この法律がどんなときに役に立つのか。

世界各国で頻発しているテロが日本で起こる計画があったとします。共謀罪があることにより、あいつらテロ起こそうと計画している、という段階で一斉に捕まえることができます。他にも、振り込め詐欺の集団っぽいやつらがいる。ほぼ間違いなと思ったら、現行犯逮捕以外にも、詐欺をやろうと計画していた時点で捕まえることができます。これだけ聞くと、すばらしい法律のように聞こえますが、反対する人も多いです。

 

では何故、反対するのか。

悪くないことでも、冤罪で捕まるおそれがあるからです。例えば官僚の不倫や汚職を暴こうと調査していたら、捕まる。政権に反対の運動をしていたら、捕まる。つまり政権に不利なことを企んでいると、共謀罪だといって一斉に捕まるおそれがあるのです。

それなら意地悪されないように、細かく内容を決めたらいい、そしてテロ対策として共謀罪を成立させたらいいと考えます。ここにはちょっと問題があります。何故なら「法案はひとり歩きする」からです。

 

例えば息子が生まれたとします。生まれたてだと、母としては夢見てしまい、将来はフィギュアスケート選手になったり、海の王子になって宮家のお姫様と結婚したり、中学生ながらも将棋で18連勝とかする棋士になったりするかもしれないと妄想してしまいます。しかし現実は甘くない。育てた息子は母の期待とは裏腹に、シンナー吸って覚せい剤を覚えて傷害事件を起こすかもしれません。思春期に性倒錯し、満員電車で痴漢をして大声を上げられて線路を逆走して列車のダイヤを乱すかもしれません。母として、そんな風に育てるつもりはなかったとしても、それは後のまつりです。傷害事件の慰謝料もJRへの賠償金も肩代わりせねばなりません。

 

このように、安易に法案を通してしまうと、法案がこのばか息子のようにひとり歩きしてしまうというと反対派は言います。そういっても、東京オリンピックを控えた日本には、テロ等に対抗出来る共謀罪のような法案が不可欠だと賛成派は言います。

さあ、これをあなたはどう思うのか。いつもは面倒くさがって考えない短気なマダムたちにも、共謀罪はちょっと知ってもらいたいなと思う娘なのでした。

※情報は2017.5.20時点のものです

カミーユ綾香

北九州市出身。在日韓国人と中国残留孤児の多く住む多国籍な街で育つ。 警固インターナショナルの代表として、十数言語による語学スクールとインバウンド支援の多言語ウェブサイト制作会社を運営する一方、難病の重症筋無力症とパンセクシュアルというセクシュアリティの当事者として、様々なマイノリティの生きやすい社会を目指して精力的に活動中。http://www.kego-international.com/

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