福岡グルメ小説“N氏の晩餐”/唐人町「Hono」のハンバーグカレー

薄暮のヤフオクドーム前に一人たたずむ私。

これから取引先の役員と野球観戦に興じるという社長のアテンドを急に申しつけられ、先刻、スーパーボックスの入場ゲートに送り届けたところで、晴れてお役御免となったのだった。

何となく手持無沙汰な思いで、唐人町駅に向けてぶらぶら歩いていると、昔ながらの風情を漂わせた商店街が目の前に現れた。

そしてふと思い出す・・・。月に一度の美食の友“N氏”がたまに一人で訪れるというカレー屋さん。そのお店がこの商店街にあると言っていたことを・・・。

商店街のメインロードやそこから派生する路地を隈なく歩いて見つけた一軒。「この店に違いない」。私の第六感がそうつぶやいた。

思い切ってドアを開け、目の前のカウンターに腰を下ろす。厨房の中で手を動かしていた店主と思しき女性に“N氏”の名前を切り出すと、「あら、そうなんですか!」と弾ける笑顔で応じてくれた。

カウンターの下で小さくガッツポーズ。

まずは生ビールを注文。初めて見る「一番搾りプレミアム」という銘柄が登場。

苦い。そして美味しい。

小さいころ、悪戯心に父親のコップを舐めたときの苦さ。その淡い思い出が蘇る。

メニューには看板に掲げてあるハンバーグやカレーのほかに、酒の肴になりそうな一品料理が満載。

メニューをにらんだまま固まる私に思わぬ助け舟。「あの方がいつも召し上がっているものをお出ししましょうか?」と店主から粋な提案。もちろん応じないわけがない。

10分後に私の目の前に広がった迫力満点の風景。これぞ “N氏スペシャル”!

皿にのっているのは4種。ミニトマトの梅酒ビネガー漬け、コロコロ鯛フライ、湯葉にオリーブオイルとハーブ塩、自家製ドレッシングの温野菜。

日本酒は、久留米市三潴町「杜の蔵」の純米酒、大川市「若波」の純米吟醸酒、そして久留米市城島町「有薫」のにごり原酒・五年貯蔵。

一般に日本酒は、精米歩合50%以下を大吟醸酒、60%以下を吟醸酒、70%以下を本醸造酒と分類される。とくに醸造アルコールを加えないものは、純米大吟醸酒、純米吟醸酒、純米酒と称され、一定の基準を満たさないものは普通酒と呼ばれる。精米歩合というのは米の周りを削って芯に近い部分がどれだけ残っているかを示す値。精米歩合が低いほど、フルーティーな香りとすっきりした透明感のある味わいになる。原酒というのは加水処理をしていない日本酒のこと。一般に流通している日本酒はアルコール度数20度前後の原酒に仕込み水を加水して15度前後にして出荷されたもの・・・。

どこからともなく、かつて耳にした“あの人”の解説が聞こえてくる。

ミニトマトの梅酒ビネガー漬けはプラムのような食感と味わい。爽やかな甘酸っぱさが口中に広がる。

これは純米吟醸の華やかさが合うかも。

コロコロ鯛フライは身が引き締まっていて食べごたえ十分。

純米酒の旨味が白身の淡白な味わいを引き立てる。

温野菜にかかった自家製ドレッシングは玉ねぎとニンニクの香りが抜群。

原酒のがつんとした力強さに負けてない。

そして湯葉の存在感。舌の上に日本酒を迎え入れる下地ができて、それぞれの日本酒の味が本当によく分かる。

こだわりの料理と日本酒のマリアージュを楽しんだ後に登場したのは、ハーフカレーにハンバーグ&チーズがのった一皿。

野菜がたくさん溶け込んだ口あたりのいいルーに、チーズのコクが加わり、ジューシーなハンバーグの肉汁が相まって、まさに三位一体の美味しさ。

合わせるのはジョニーウォーカー12年、いわゆる“ジョニ黒”のハーフロック。

ウイスキーと水を1対1で割ったロックスタイル。それがハーフロック。

独特のコクと香ばしさ、そしてまろやかさ。スコッチのブレンデッドウイスキーの代表格はカレーとの相性も抜群だ。

空っぽになったカレー皿を前に、ロックグラスに残った最後のひと口を飲み干す。

グラスをカウンターに置いたそのとき、私の胸の中を爽やかな初夏の風が吹き抜けた。そして、先ほどヤフオクドーム前の歩道橋から見た清々しい夕景がしみじみと思い出された。

※情報は2017.5.31時点のものです

Hono

住所福岡市中央区唐人町1丁目3−4 シャンテアサカ 1F
TEL092-791-1862
URLhttps://www.facebook.com/honotojin/

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AKASAKA BOY

謎のライター

1978年福岡市赤坂生まれ。福岡の街の魅力を小説形式で発信中☆

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