福岡には巡回しないのでお見逃しなく… 「バロックの巨匠たち」@佐賀県立美術館

6月17日(土)から、佐賀県立美術館で「バロックの巨匠たち」展が始まります。7月20日(木)まで続く展覧会の見どころについて、オープニングを前に佐賀県立博物館・美術館副館長の徳渕優子さんと福井尚寿さんが、お話し下さいました。

(聞き手・文 佐賀市シティプロモーション室 樋渡優子)

「バロックの巨匠たち」展ポスターに使われたレンブラント・ファン・レイン《襞襟を着けた女性の肖像》ヨハネ・パウロ2世美術館 ©Museum John Paul Ⅱ Collection  写真提供・佐賀県立博物館・美術館

「バロックの巨匠たち」展ポスターに使われたレンブラント・ファン・レイン《襞襟を着けた女性の肖像》ヨハネ・パウロ2世美術館 ©Museum John Paul Ⅱ Collection  写真提供・佐賀県立博物館・美術館

■バロック美術の見どころとは?

――展覧会のポスターに使われている、黒い背景に真っ白い、大きな襟の服の女性の絵は非常に目立ちますね。

徳渕:はい、レンブラントの<襞襟(ひだえり)を着けた女性の肖像>ですね……。襟の細かさや女性の肌の感じなど、まさにそこだけに光が差し込んでいるような、ドラマチックな描き方です。

福井:今回ご覧いただくのは、チェコ最古の美術館であるプラハ国立美術館、ポーランドのヨハネ・パウロ2世美術館、フランス・ドゥエのシャルトル修道院美術館、の3つの美術館のコレクションから出品された44点です。「バロック」とは〝ゆがんだ真珠〟を意味する言葉で、16世紀末にイタリアで生まれ、18世紀初めまでヨーロッパ各地で展開を見せた表現様式です。

ピーテル・ブリューゲル(子)《フランドルの村》プラハ国立美術館
©National Gallery in Prague 2016 写真提供・佐賀県立博物館・美術館

ピーテル・ブリューゲル(子)《フランドルの村》プラハ国立美術館
©National Gallery in Prague 2016 写真提供・佐賀県立博物館・美術館

――ヨーロッパ絵画ではルノワールやモネ、ドガなど「印象派」が日本では人気がありますが。

福井:印象派は19世紀後半ですから、バロックのほうがかなり時代をさかのぼりますね。「ここまで古い絵画が巡回展で来るのは珍しい、佐賀では初めて」というのが、今回の展覧会をご紹介するときに申し上げたい点の一つです。

44点と作品数はやや少なめですが、一点一点がかなり大きくて、みごたえがあると思いますよ。作家もルーベンス、ベラスケス、ブリューゲル、ヴァン・ダイクと、バロックを語るときに欠くことのできない人たちが入っています。

また、バロック直前のルネサンス期の画家・ティントレットが入っていたりして、またこのティントレットも普通言われているのとはちょっと違う作風のものですので、絵にお詳しい方にも、ぜひ見て頂きたいです。

徳渕:「佐賀にいながら、ヨーロッパ絵画の真髄を見ることができる」展覧会です。

――正統派(オーセンティック)ですね。

福井:あいにく今回の展覧会には入っておりませんが、フェルメールはいわば〝バロックど真ん中の作家〟。近年は日本で大変な人気ですが、やはり日本人が好むタイプの絵ではないかと思うんですね。

アンソニー・ヴァン・ダイク《エジプトへの逃避途上の休息》ヨハネ・パウロ2世美術館 ©Museum John Paul Ⅱ Collection 写真提供・佐賀県立博物館・美術館

アンソニー・ヴァン・ダイク《エジプトへの逃避途上の休息》ヨハネ・パウロ2世美術館 ©Museum John Paul Ⅱ Collection 写真提供・佐賀県立博物館・美術館

――どのあたりに日本人は惹(ひ)かれるのでしょう?

福井:人それぞれの好みはありますが、バロック主義の絵は見てわかりやすいということはあるでしょう。キリスト教的な絵はもちろん多いですが、キリスト教の教義がどうであるとか、細かなことがわからなくても、ただ「美しい」と思って見られる。そこにはドラマチックな表現というバロック派の特徴が挙げられると思います。

■煎茶の神様「売茶翁(ばいさおう)」は佐賀出身

徳渕:ブリューゲルの代表作の一つの「バベルの塔」が東京で公開されていて、大友克弘さん(漫画家・映画監督)がNHK「日曜美術館」で解説されていました。「あの精密さがたまらない」と……。

当館でもことし3月から5月まで展示した「ホキ美術館名品展」に、とても沢山の方が来られたんですよ。写真と見紛うような細密な絵ですが、「良かった~」と皆さん言われていました。

――日本の細密画というと、江戸時代の伊藤若沖(いとうじゃくちゅう・1716~1800)が大変な人気です。

徳渕:若冲さんは佐賀と縁があるんですよ。

――え、どんな?

徳渕:煎茶の中興の祖として名高い黄檗宗(おうばくしゅう)の僧・売茶翁(ばいさおう・1675~17631)さんに心酔されていたんです。若冲は人物絵はほとんどといって描いていないのですが、売茶翁さんの横顔(プロフィール)を残しています。売茶翁さんのお父さんが佐賀藩の御殿医で、ご本人はいまの佐賀市で育たれました。

福井:若冲は日記か何かに書いているらしいですんですね、「人間なんて書く意味がない」というような意味のことを。

――でも、売茶翁だけは描いた。それだけ親交が深かったということなのでしょうね。

伊藤若冲が描いた「売茶翁(ばいさおう)像」江戸中期 (図録「没後200年記念 なにわの知の巨人 木村蒹葭堂」大阪歴史博物館編 思文閣出版 平成15年より)

伊藤若冲が描いた「売茶翁(ばいさおう)像」江戸中期 (図録「没後200年記念 なにわの知の巨人 木村蒹葭堂」大阪歴史博物館編 思文閣出版 平成15年より)

■オープニングを目の前にして

――美術館に搬入されてくる名画・名品を箱から出して、真っ先にご覧になるのは嬉しいものでしょうね。「おお、最初に見られたぞ~」とか(笑)。

福井:いやいや、もうちょっと緊張感がありますよ(笑)。所蔵元の美術館の学芸員さんも絵について一緒に来られますし、作品の状態が良いかどうか、こちらの館の受け入れ態勢も細かくチェックされます。

徳渕:そこで何か不都合があったら大変なことに……。

佐賀県立美術館。博物館と並んで、緑に囲まれた静かな場所にある。写真提供・佐賀県立博物館・美術館

佐賀県立美術館。博物館と並んで、緑に囲まれた静かな場所にある。写真提供・佐賀県立博物館・美術館

――展覧会をすると決めるのはいつごろですか。

徳渕:2年ぐらい前です。

福井:1年前のいま頃は、図録の準備をしていました。今回は全国5カ所を回る巡回展で、最初の岡崎市(愛知県)が9月始まりでしたので、その前に図録が出来上がっていなければならない。

――みんなで図録を作るんですか?

福井:その時々によりますが、今回は44点で5カ所ですので、9点ぐらいずつ各館で手分けして説明を書いたりしました。

――絵が佐賀に搬入されてくるのはいつですか?

福井:6月11日までは一つ前の山梨で展示していますので、それが終わってからこちらに入ってきます。6月17日始まりですので、来週になると忙しいですね。

徳渕:夜まで展示に掛かりきりになります。

――いよいよ、オープニングまであと一息ですね。

福井:ここまでくれば、あとはアクシデントがないことを祈るばかりです。

――展覧会を開くに当たっては、何が一番大変ですか?

徳渕:うーん、やっぱり企画の段階ですね。皆さんに喜んでもらえるような展覧会を、また、当館の学芸員がいろいろな研究をしている成果をどういうふうに出せるか、いかに見せるか……魅力のない展覧会では、皆さんにお越し頂けませんので、いくつもの魅力をいかにして引き出して伝えられるか、そのあたりが知恵をひねるところです。

福井:絵の展示中も心配ごとは尽きません。去年4月の熊本地震のときは当館もかなり揺れました。断続的に余震が続く中、6月のピカソ展では「万が一にも作品が落ちたりしないように」と神経を尖らせて……。

その間、被災した熊本の美術館や博物館や関連施設に応援に行ったり、修復や整理のお手伝いのために、当館からも学芸員が行きました。

――なるほど、美術品を展示して見せるだけではないお仕事が沢山あるのですね。今回のバロック展も沢山の方にご覧いただけますように。

福井:はい、会期中は、お勤め帰りの方でも午後8時までご観覧いただけるナイトミュージアムや、バロック音楽の演奏会、各種講演会も予定しておりますので、よろしくお願いします。

徳渕:佐賀県が生んだ日本近代洋画家の巨匠・岡田三郎助(1869~1939)の作品を展示する「OKADA ROOM」もご覧いただけますので、ぜひこの機会にお越し下さい。「OKADA ROOM」は入場無料です。

美術館内の「OKADA ROOM」では、佐賀出身の著名洋画家・岡田三郎助の作品を展示する(入場無料)。写真提供・佐賀県立博物館・美術館

美術館内の「OKADA ROOM」では、佐賀出身の著名洋画家・岡田三郎助の作品を展示する(入場無料)。写真提供・佐賀県立博物館・美術館

「バロックの巨匠たち」展 特設サイトはこちら

☆文中に出てくる売茶翁は煎茶を世の中に広め、1735年、京都にお茶を飲み、人々がわけへだてなく集い語らう「通仙亭」を開きました。

佐賀市が街づくりを進める市内柳町の「肥前通仙亭」では、翁の偉業を伝える資料を展示すると共に、有田陶器で嬉野茶を楽しむ〝佐賀づくし〟の喫茶スペースを設けています。

※情報は2017.6.15時点のものです

佐賀県立美術館

住所佐賀市城内1-15-23
TEL0952-24-3947
URLhttps://saga-museum.jp/museum/

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