紙の時計、シリコーン製カップ…商品の「価値」まで創造するデザイナー

  • 2019.6.10

 「パケ買い」「ジャケ買い」などと呼ばれるように、商品の見た目に引かれて購入することも多いのではないでyそうか。商品の質も重要だけど、デザインがいいと使うときの高揚感を楽しめて、愛着もぐんぐん増していくから見た目はやっぱり大事です。

 今回は私たちの身近なものをデザインする「なかにわデザインオフィス」(福岡市)の中庭日出海さんにプロダクトデザイナーの役割について尋ねた。

Q. プロダクトデザイナーとはどんな仕事ですか

 
 

 「どんなものをデザインしているんですか?」とよく聞かれるんですが、身近なもので挙げると、花火やお茶の商品企画とパッケージデザイン、そして鏡や時計の企画、デザインをしています。売り物としての製品ですね。

 長崎県波佐見町にある「岩嵜紙器」さんとの仕事は、企画から入ったのですが、箱やパッケージの製造会社ということで、長年培われてきた展開図の設計や組み立て、箔(はく)押し、エンボス加工などの技術を利用して生活雑貨を作りました。カレンダーや鏡、時計、フォトフレームなど、全て紙製です。

 紙は劣化しやすいからと表面を補強加工しがちですが、そうすると紙特有の質感や手触りを無くしてしまいます。社名に「紙」の文字があるだけに、それは避けたいと思って、紙でも十分に機能する物を作ってみてはと提案しました。時計もフォトフレームも飾ってしまえばめったに触らないので、劣化もあまりしないんです。

【写真:岩嵜紙器「enough」シリーズの時計4000円】

Q. 商品デザイン以外にも役割が?

 企業側からいろんな発注がありますが、「本当にそれ、やるべきですか?」と疑問を抱くケースもあったりします。何がしたくてデザインを依頼しているのか、根っこの部分を尋ねたくなるような。

 まず、既存の商品をデザインし直す場合は、本当に必要なのかを考えます。ビジュアルを作り直すことで実際に相手(消費者)に伝わり、売れるようになるのか。効果を生む=売れることがプロダクトデザインの前提なので、根底部分からジャッジしてとなると、自然とコンサル的な仕事に結びつくんですよね。

 また、クライアントによっては、営業費など制作費以外のコスト感覚を持っていないこともあり、要望通りに作ると初期投資だけで高額になることもあります。

 最初から予算を使い切ってしまうと、商品完成後、売るための営業や販促、ウェブサイトの立ち上げ、運営まで金銭的体力が持たなくなってしまいます。全体のコスト感は経験上自分が把握しているので、打開策を挙げてアドバイスをしています。社内だとわからない、外部かつデザイナーという立ち位置だから見えることがあるので、思ったことは伝えるようにしています。

 せっかく作ったものでも知られなければ効果が生まれないし、意味がないですよね。まだまだ「新しいものを作れば売れる」と思っている企業が多いので、作った後のその先のことまで考えなければ。個人的にもデザインして終わりではなく、その次の売り場のこと、営業のこと、お客さんにどう使われているかを考えながら、展開の仕方やコスト感も提案しています。

 既存商品をリニューアルする時、パッケージデザインとともにネーミングや値段を再考します。というのも、ビジュアルと価格次第で、店頭での扱い方が変わるんですよ。安すぎると棚に置かれるだけで目にとまるディスプレーをしてもらえないので、例えばビジュアルと価格をギフト仕様にしたり、デザインや名前にフックを与えたり、売り場のことを念頭に置きながらデザインしますね。

 また、作る人たちのテンションも大事にしたい。製造や営業の方々にとって愛着を持てる商品でありたい。

 何かしらの手間がかかったとしても、結果として素晴らしい効果を得られるなら、やりがいを持って取り組んでくれると思うんです。そして単純に、作ったものが売れたらもうかるし、これが一番うれしいですよね。こういう好循環を生み出さないとなと常々考えています。

【写真:吉田木型製作所「ダッチオーブン」1万4000円】

Q. シリコーン製雑貨を開発した経緯は?

 母校の専門学校に依頼があり、最初は学生と進めていくプロジェクトでしたが、デザインはできても運営まで長期的に取り組むことが難しいだろうと、卒業生を中心にした僕らでやらせてもらいました。

【写真:SiNG「FACTORY」ペンシート・かき 800円】

 依頼主の「SiNG」さん(太宰府市)は、シリコーンゴム専門の製造工場で設計から製造までしている会社です。

 部品メーカーだと図面通りに作って納品するだけの仕事が多いので、自社で製造した製品が最終的にどのように使われているか見えないんです。

 「日々自分たちが作っている物って何なんだ?」とジレンマを抱えていたとか。そこで僕が提案したのは、直接ユーザーとつながれる商品です。工業製品を作っているバックボーンが強みなので、精密な物を作り続けてきた実績をもっと前に出したくて、「部品のようなアイテム」の商品化を提案しました。

 輪ゴムも特殊なパッキンに見え、部品っぽく見える形状。ちなみに、シリコーンは安全性、弾力性や耐熱性に優れています。これを伝えたくて直接肌に触れるアイテムを作ることにしました。マグカップも「これ実はシリコーンで」と、素材が会話の中心になりますしね。

【写真:福岡県太宰府市・竈門神社の参道にあるSiNGのショールーム兼カフェ「cafe Si」】

 

【写真:キーリング(1200円)もシリコーンで作られている】
 

Q. 商品の「値段」についてどう考えますか

 値段で判断しないようにしています。例えば、値段が安いとそのもの自体が安っぽく見られますが、値段を言われなければ品良く見えるものが世の中には結構あるんですよ。これって扱い方次第。だから、上質に見せるパッケージをデザインする際、素材自体が安いからと言って除外しません。安くても良く見せることができそうだと思えば採用します。

 
 「うきはの山茶」(福岡県うきは市)が出している、有機栽培の茶葉を使ったプレミアムシリーズは、片艶晒(かたつやさらし)というごくごく一般的な紙を使い、しかも裏面を表にしてデザインしました。裏のザラザラした紙面にグレーのモノクロ印刷をかけることで、ちょっと艶のあるいぶし銀みたいな質感になるんです。上質な雰囲気をまとっているけれど、パッケージの材料は高価ではないし、モノクロ印刷なので低コスト。きっと、言われないと分からないですよね。
 この素材を使った理由はコスト面だけでなく、生産者や販売元の雰囲気も意識しました。田舎で粛々と茶葉を育てているお店だから、パッケージには硬質なものを使いたくなくて。

 現場の有機的な雰囲気に合わせることが重要だと思いましたし、安い紙でも整えることで上質そうに見せることができるんです。また、ひもを結ぶひと手間があり、外装から手仕事の温かみが伝わるのもポイントです。

※記事中の商品価格は全て税別です

Q. 中庭さん自身の金銭感覚も教えてください

 
 
 最近の大きな買い物は、自然豊かな環境を手に入れたくて、梅やビワが採れる小さな梅林を買いました。もともと所有されていた老夫婦が丁寧に管理していて、安く譲ってくれたんです。子どもの野遊びの場にもなるし、僕らも山仕事が楽しみで。近くの小川にはホタルが生息しています。こうした最高のロケーションをずっと楽しめると考えれば、一生かけても十分元を取れるんじゃないかと思います。

 わが家は、マンションを中古で買ってリノベーションをして、新築物件の半額ほどで済んだので、浮いた分を他に充てています。

 家や車など大きな買い物は、考え方次第で大幅にコストを下げられるのでは。缶ビールの節約とか日々の小さな積み重ねも大切ですが、高額な買い物でやりくりした方が大きな節約になって合理的だと思っています。

 最近は生活スタイルが多様化していますし、お金をかけない人も楽しく暮らせそうです。さらに住む場所の選択肢も増えてきました。僕のような職種なら都心に住まなくても作業できますし、子どもを育てたい環境で仕事ができます。自分にとってはいい時代だと感じます。

「なかにわデザインオフィス」 中庭 日出海

 1981年生まれ、長崎県出身。福岡の専門学校で2年間空間デザインを学び、1年間研究生として過ごす。卒業後は建築デザインに従事しながら、デザインの専門学校講師を務め、数々のデザインコンペにて受賞。2007年に「なかにわデザインオフィス」設立。プロダクトデザイナーとして家具、空間、食品や化粧品など幅広いジャンルのデザインや商品開発に携わる。

福岡県福岡市南区井尻5-24-15 野上ビル #305
TEL:092-586-6770
HP

※情報は2019.6.10時点のものです

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