「今撮るべきと思った」認知症描いた映画「長いお別れ」の中野監督が語る

 記憶を失っていく父と家族の7年間を描いた映画「長いお別れ」が5月31日に公開されました。2016年公開の映画「湯を沸かすほどの熱い愛」で数々の映画賞に輝いた中野量太監督が、小説「長いお別れ」にほれ込み映画化。認知症の父への変わらない愛や笑いにあふれた“家族”を温かく丁寧に描きます。中野監督に作品への思いを聞きました。

映画「長いお別れ」監督 中野量太さん

―原作の小説のどんなところに魅力を感じましたか?

 僕の祖母も認知症でしたし、これからの時代、認知症という病気にかかわらない人の方が少ないのではないかと思ったんです。僕は、今撮るべき映画、撮らなきゃいけない映画というものがあると思っていて、そういう作品を撮っていきたいと思っています。まさに認知症は、今やらなきゃいけないテーマ。病気を題材にする作品は、どうしてもつらい、暗いというイメージがありますが、この小説は違った。もちろん、病気の厳しい部分も描かれていますが、僕の知らない認知症が描かれていました。映画化が決まって、現場を取材して新たに知ったことも本当に多かったです。

私も映画を見る前と後では認知症のイメージが変わりました。

 認知症という病気はやはり、絶対的に大変です。でも介護って、介護している側が100パーセント与えているイメージですが、実は与えられている部分も多々あるんです。そこにちょっとしたおかしさ、ユーモアがある。取材現場で「あぁ、こんなに笑っていいんだ」と感じたときは衝撃でしたし、“認知症=人が変わる”と思いがちですが、調べれば調べるほど、壊れているのはほんの数パーセント。ほかは何も変わっていない。記憶は失っても、心は失っていない。そこが、今回描くべき根幹のテーマだと確信したのは大きかったです。

認知症を患う父・昇平を演じた山崎努さんの演技は圧巻でした。

 キャスティングは縁。山崎さんにオファーをしたときは、既に小説を読んでいらっしゃいました。小説を読んでいるとき、自分にオファーが来るという予感があったそうなんです。なぜそう思うのかって、この役を演じるとすごい芝居ができるという自信があるからこそ。そしてもちろん、その役をやりたいんですよ。そういう方にオファーを出せたという部分は、本当に強いご縁を感じます。

山崎さんに初めて会ったとき、5時間も話し込んだそうですね。

 ええ、鉄板焼き屋さんで(笑)。僕の映画の事をすごく褒めてくださったんです。過去の作品も見てくださっていて。もちろん僕も、今作への思いを必死に伝えたと思います。途中から、褒められるのがとても気持ちよくて、お酒も手伝ってあまり覚えていません(笑)。

撮影前には、本物の家族に“見える”ように仕掛けをしたとか。

 俳優にとって、本当の家族のように“見せる”ことは簡単なんです。でも本当の家族に“見える”までが難しい。この映画は、松原(智恵子)さん演じる母・曜子が、昇平の70歳の誕生日会のために実家に戻ってきた竹内(結子)さん演じる長女と蒼井(優)さん演じる次女に、病気のことを伝えるところから始まります。でもお父さんが元気だった頃の誕生日会を知らないと、父の変化に驚くことはできません。それで、お父さんが元気だった67歳の誕生日会を開くという設定で撮影前に集まりました。ハウススタジオを借りて、料理やケーキ、パーティー用の三角帽子を用意して。半分リハーサルで、半分親睦会。どの映画でも僕はそういう仕掛けをするのですが、役者同士の距離を縮めてくれるので重要です。

中野監督が次に撮りたいテーマは?

 福岡を舞台にした映画を撮りましょうか(笑)。福岡は、映画のキャンペーンでしか来たことがなくて、あまりゆっくり過ごしたことがないんですが、撮影に協力してくれる街だと聞いています。いつか福岡で撮影できればいいなぁ。いつかやりますよ!

〈プロフィル〉
中野 量太(なかの・りょうた)
 1973年生まれ。京都府出身。2012年に自主長編映画「チチを撮りに」を製作し、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭で日本人初の監督賞を受賞。同作でベルリン国際映画祭など各国の映画祭に招待され、国内外で14の賞に輝く。2016年に公開された映画「湯を沸かすほどの熱い愛」で、日本アカデミー賞主要6部門を含む映画賞計34部門で受賞した。

※情報は2019.6.13時点のものです

秋吉真由美

この記事もおすすめ