「山」も「まち」も元気に 福岡・糸島の木工雑貨店 にぎわいも創出

  • 2019.7.8

 福岡県糸島市の「山」を元気にしたいと、市内で雑貨店を営み始めた女性がいる。「糸島くらし×ここのき」の店主・野口智美さん。店内には地元作家が地元の木で作った木工品や、陶器、アクセサリー、おやつまで、暮らしを彩るさまざまな商品が並ぶ。糸島の玄関口・JR筑前前原駅前エリアを盛り上げる活動にも取り組む野口さんと、スタッフの千々岩哲郎さんに、その狙いを聞いた。

 

Q. なぜ「山」に注目したのですか

 野口さん:糸島の山の木を売りたい、と思ったからです。もともと環境問題に関心があって、地域の活動に参加する中で、山が荒廃していることを知り、何とかしたいと思いました。

 でも、具体的にどうしたらいいのか分からなくて、とにかく何かお手伝いをさせてほしい、と糸島にある小さな木工所にお願いして、いろいろと山のことを教えてもらいました。

 山は、生い茂った木を間伐(木を間引くこと)して定期的に手入れをしないと荒れてしまいます。それに、間伐しても再利用にはコストがかかるので、糸島のように林業地でないところは経済として成り立たず、間伐した木はそのまま山に放置されるんです。

 木を切って捨てるのは本当にもったいないし、地元では放置しているのに、海外からお金と時間をかけて建材を運んでくるのは矛盾していると思いました。

 木を消費する人がいて利益が生まれれば、経済が回ってもっと山を手入れすることができるという話を聞き、じゃあその場を作ろうと思って、店を始めることにしたんです。

【写真右:桜のボールペン 270円(税込)。地元の障がい福祉多機能型事業所「MUKA」が製作した】

Q. 開店までは順調でしたか

 野口さん:開店資金はトータルで150万円くらいです。とにかく気持ちはあるけれどお金がないところからスタートしたので、解体した古い家のドアや窓ガラスを譲ってもらうなどして、お金をかけないように工夫しました。

 
 千々岩さん:店の壁も、ワークショップみたいに「しっくい塗り体験」と呼び掛けて、参加者にやってもらいました。その頃はまだ、糸島が今のように全国的に知られていなくて、20代の作り手さんなど「今からやるぞ」という気持ちを持った人が多かったので、勢いで乗り切った感じです。

 その中で作り手さんたちとも出会うことができたし、そういう苦労を共にしてきているから、みんな同志みたいで、今も根っこでつながっている感じですね。

 野口さん:何にも分からなくて、最初は作家さんに納品書の書き方を聞いたり、支払いはよそでどうしてるのか聞いたり。でもそうやって、決まりを作らずにそれぞれの作り手さんに寄り添うスタイルだったので続けてこられたのかもしれません。

Q. 商品選びのポイントは

 野口さん:暮らしに必要なものは何でもそろえたいんです。衣食住などに必要なものが、全部住んでいる場所で賄えたら幸せなんじゃないかな、って思うので。 今は70軒ほどの作家さんのものを取り扱っていて、全て糸島で作っているものや、糸島の素材を使っているものです。物がいい、商品力があるというのは大前提。作り手が、それを作って売ることでどうしたいのか、という思いに共感できることを大切にしています。

【写真:季節のジャム 480〜605円(税込)。「ジャムCafe可鈴」(糸島市)のジャムは低糖度で、食感を楽しんでもらうために、果肉を残している】

Q. 街の散策マップを作ったそうですね

 千々岩さん:旅先で「誰に出会ったのか」でその街の景色って変わると思うんです。せっかく糸島まで来た、バスの待ち時間はスマホを見ているだけ、ピンポイントで「店」「海」「山」をさっと回るだけでは寂しい。何か街中を歩けるようなものがあるといいね、と地元の仲間たちと話していて誕生したのが、街の散策マップである「前原歩帖(ほちょう)」です。関東から移住してきた仲間もいて、「外から見たこの土地の良さ」が分かるんです。観光目線と街の歴史の紹介、個人事業主を応援したいという気持ちなどを形にしました。

 【写真:掲載者からの協賛金で自主製作している「前原歩帖」。糸島市観光協会や糸島市役所でも配布している】
 
 【写真:店舗内にある「タナカフェ」では、オーナー自らが豆から仕入れ、ばいせんしたコーヒーを提供。近所の常連さんも多い】
 

Q. 開店から10年でどんな変化が起きましたか

 千々岩さん:おかげさまで、少しずつ店の売上も伸びてきています。ここ最近でうれしく思うのは、オープン当時は1人で活動していた作家さんに弟子ができたり、パートを雇っていたりすること。利益や雇用が生まれていることを実感します。

 それに、観光客に向けて作った「前原歩帖」が、新しく引っ越してきた人々にも重宝されていることを知り、驚きました。近所に何があるのか分かるので、実際に暮らす人たちのコミュニケーションツールにもなっているみたいで、それは想定外の喜びでした。

 観光地としての認知度も上がり、関東や関西の友だちから「遊びに行きたいから案内して」と言われる地元の人も多いそうです。「こういう情報が欲しい」という新たなニーズも、少しずつ地図に反映させていけるといいな、と思っています。

 【写真:メモラージュマグカップ 3024〜4320円(税込)。「陶工房Ron」(糸島市)の龍太郎さんの作品。海をイメージした青色のうわぐすり作りにも力を入れている】

Q. これからの目標は

 
  野口さん:今後は地元の木材で作った家具を店舗に置けるようにしたいです。実は、1年前に木材を加工する機材を3台手に入れて、加工を始めました。

 店をオープンする前からずっとやりたかったんです。今ではかんなをかけたりカットしたり、木を削りだして、DIY用の材料屋としての一面も持つようになりました。本業の方のような技術はありませんが、もっと気軽に木を使ってほしいという気持ちでやっています。

 千々岩さん:僕は「前原手帖」を作って1年が過ぎたので、スタンプラリーをしたり、地図に描いてある建物のピンバッジなどを作ったりといった、小さいながらも来た人に満足してもらえるようなイベントを企画中です。

 この地図は昼間の街歩き用として作ったんですが、今、九州大学の学生が夜の地図を作っているらしくて。すごくいい傾向だな、とうれしく思っています。

 
 前原地区以外にも、歩いて面白いところはたくさんあります。地図作りに興味がある人がいたら、必要なスキルや人材をお伝えして、その地区の人に作ってもらいたいです。

 実際に暮らしている人たちが楽しみながらできること、その地域を盛り上げようと思う気持ちが一番大事だと思います。自分たちでこういうものを作ろうと思ってくださったら大成功です!

糸島くらし×ここのき 野口 智美/千々岩 哲郎

 野口 智美/1978年福岡市生まれ、糸島育ち。荒廃した糸島の山を手入れすること、放置された間伐材を提供する場をつくることを目標に、2010年春に「糸島くらし×ここのき」をオープン。「住んでいる場所で全てが成り立つ暮らし」を目指し、糸島エリアの作り手による暮らしに関する商品を幅広く取り扱う。

 千々岩 哲郎/1981年福岡市生まれ。オーガニックコットン店を運営していた際の取引をきっかけに、「ここのき」との交流がスタート。現在は「ここのき」のイベント企画や催事などを主に担当し、前原地区の楽しさを発信している。

糸島くらし×ここのき
福岡県糸島市前原中央3-9-1
TEL:092-321-1020

HP
Instagram
Facebook

※情報は2019.7.8時点のものです

mymo

今話題のお金にまつわるトピックや、今気になるくらしの情報をお届けします。

mymo公式サイトをみる

この記事もおすすめ