本物の外交官も「外交官 黒田康作」を見ている マーガレット・G・マックロードさん(在福岡米国領事館広報担当領事兼福岡アメリカン・センター館長)

2013年7月に、米国の広報業務を担うため福岡に着任されたマーガレット・G・マックロードさん。インドやパキスタンでの勤務経験もあり、ウルドゥー語やヒンディー語、グジャラティ語に加え、フランス語も堪能とのこと。そして、インタビューは、知的な日本語で答えてくださいました。どうしたらそんなに外国語が上手になれるの?外交のプロに伺ってきました。

Q)外交官の仕事って大変そうなイメージがありますが

A)今までで一番大変な仕事はインドのムンバイで、2008年11月に起きた同時テロ事件でした。テロの被害にあったアメリカ人を探したり、安全性を確認したりしました。大変でしたが、やりがいのある仕事です。人間の命に関わる仕事ですので。私は2007年に国務省(日本の外務省)に入省して、インドは最初の任地でした。赴任して1年すぎた頃の出来事でした。

インドの病院の遺体安置室にアメリカ人の遺体がないか、探しに行ったこともあります。病院に行って、車から降りて、長い廊下を歩いて、どういう仕事になるんだろうと考えながら、心の準備をしました。アメリカ人らしい遺体を探す、といっても、インド系アメリカ人の可能性もありますから、パスポートや、持ち物、服装から、それらしい遺体の情報を収集しなくてはなりません。3日くらいそんな仕事をしました。毎日、もうすぐ終わりだ、もうすぐ終わりだと考えながら。同僚の中には、銃で狙撃されそうになり、車の陰に隠れてしのいだ経験がある者もいます。

Q)危険な任務もあるのですね。福岡では、どんな仕事をされているのですか?

A)外交官の仕事といえば、人と会ったり、話したりしながら異文化について学んだり、自分の国について説明したりといった仕事を想像されるかもしれません。けれども、意外と報告書など、書類仕事も多いんですよ。

パソコンの前に座っていることが多いですが、米国に関する情報提供のための講演会やセミナーなど、イベントの企画などもしています。イベントは、東京の大使館の主導で行われることもありますが、九州のニーズ、特徴に合わせて、関心を持ってもらえるイベントを作ることは、私たちの役割です。

Q)九州のために特別に企画されたイベントってなんですか?

A)佐世保市の図書館に、「アメリカンシェルフ」というコーナーがあります。英語の本や雑誌を寄贈して作ったコーナーです。この本の活用のために、夏休みに、英語の本の読み聞かせのイベントをしようかと、考えています。基地も近いですし、アメリカ人と日本人の交流の機会になればと思います。

福岡市内にアメリカンシェルフはありませんが、こちらのアメリカン・センターに資料室があります。私たちも子ども向けの本を購入しましたので、ここでも読み聞かせができればと思います。子どもだけでなく、お母さん方にも参加していただけるような、母親向けのプログラムも検討しています。

Q)どうして外交官になろうと思ったのですか?

A)高校生のときのフランス語の先生が、外交公務員の入省試験についてのビデオを見せてくれました。そして、外国語を勉強しながら給料をもらえる仕事があると知って、そういう仕事をしたいと思ったんです。当時は、フランス語と日本語を同時に勉強していましたから。

Q)なぜ、日本語も同時に勉強していたのですか?

A) 実は、日本の中学2年生にあたる時期が私の「人生の節目」になるのですが、陸軍の両親とともに、神奈川県のキャンプ座間に引っ越してきて3年間住みました。そこで、大学進学も視野に入れて、日本語も勉強しようと思いました。アメリカの一般的な学校なら、フランス語やスペイン語を選択できますから、私は、中学生からフランス語を勉強し始めたのですが、日本語もできた方が競争力が上がると思いました。帰国してからは、カリフォルニア州で1年、大学で3年間勉強しました。大学在学中の1学期間は愛知県の南山大学に留学しましたし、アメリカでは、日米協会の集まりに出て、日本人と交流の機会をつくろうとしました。

Q) 言語への関心が外交官になろうと思ったきっかけだったと?

A) それもありますが、軍人の娘として愛国心いっぱいで育てられて、国のために貢献したいという気持ちが大きかったのです。ただ、私は、「うどの大木」で体育が苦手だったので、軍人になるより、外交官がいいかもと思いました(笑)。ほかの国の人と触れあう機会も多いですし。

Q) 外交官の仕事で一番楽しいことってなんですか?

A)  3年ごとに新しい場所に行って、新しい友人を作って、異文化とふれあえること。冒険ですね。国務省に2007年に入省してからはインドのムンバイ、パキスタン、それからワシントンDCの本省に戻り、それから福岡には、山笠の時期、2013年7月に赴任しました。

Q)3年ごとに別れもやってきますよね。さみしくないですか?

A)私はアメリカで、生まれたのはワシントンDC、すぐにアラスカ州に引っ越し、マサチューセッツ州、オハイオ州、神奈川、カリフォルニア州、などに住んできました。両親が「転勤族」でしたから。だから、若い頃から、過去を振り返らないようにしています。母はいつも、(転勤先の)今度の友達、今度の学校は楽しみね!というような言い方をしていました。

Q) 何ケ国語も習得されたようですが、全てビジネスレベルで話せるのですか?

A)全部同時に話すことはできません。ちゃんとしたヒンディー語を話そうとすると、2週間くらい映画を見るなど、ヒンディー語漬けにならないと。けれども、フランス語以外では仕事をしたことがあります。

Q) もし、語学学習のコツがあれば、教えてください。

A) 勉強に役に立つ、三つのポイントがあると思います。一つは、動機。(学びたい言語が使われている)その国に暮らすことは一番の動機となりますね。衣食住を満たすために、言葉を使う必要があるわけですから。

二つ目は発音の勉強の仕方。自分の母語を話す外国人が、どういう間違いを犯しているかを研究するとためになります。例えば、アメリカ人は、日本語を話すときに助詞を強調しすぎる傾向があります。例えば、「私『は』」とか「私『が』」など。アメリカ人が日本語で犯す間違いをまねすれば発音のヒントになるかもしれません。私が、フランス語を勉強し始めたときは、アメリカのアニメに、大げさなフランス語訛りで話すキャラクターがいて、そのキャラクターのまねをしていましたよ。

三つ目はシャドーイングです。音楽やドラマを楽しみながら、聞いて、ネイティブの口の動き方を観察し、聞いた音を繰り返します。自然な文の構成、言葉のつなぎ方、文法を身につけるために役に立ちます。また、聞いた言葉を繰り返すことで、口の筋肉が発音の際の動き方を覚えます。英語では、マッスル・メモリーといいますが。

Q)シャドーイングするときは、どんなドラマを見ているのですか?

A) 外交に関する専門用語を大切にしたいですから、(ドラマのオープニングをまねして)「外交官 黒田康作」。それから、憲法用語や経済用語も勉強したいので、「負けて、勝つ 」、「官僚たちの夏」。専門用語の勉強とは関係ないですが、「トリック」にもはまっています。

文化に関係するところでは、コンピューターアニメの「Peeping Life」。2人の日本人の会話のアニメです。外国人なので、日本人同士の親密な会話に入る機会が限られますから。

Q)日本語の勉強で難しいことってありましたか?

A) フラストレーションを感じることもあります。日本語はハイコンテクストな言語です。例えば、英語なら、主語が必要ですが、日本語では、省略することもあるので、曖昧さが難しいです。また、尊敬語と謙譲語は教科書で習って、実際に使えますけれども、どこまでの丁寧さが求められるのか、使い分けが難しいです。

けれども、日本語を勉強することで得られる知恵や経験は楽しいです。例えば、イヌイットの人たちには、雪を表すための言葉が複数あるそうです。英語では雪は一つ。英語でこういう言葉がない、という概念を発見すると楽しいです。日本語なら「もののあわれ」、「わび」、「さび」。英語では説明するのは難しいです。

Q)英語の勉強のために、留学を考えている日本人も多いのではないかと思いますが。

A)留学は大事です。外国語の勉強のために一番いい方法です。特にアメリカへ来てください(笑)。働く女性やシニア層でも、勉強する機会はあります。短期英語プログラムもありますし、専門学校もありますし、4年間の大学留学だけではなく、多様なプログラムがあります。うちのアメリカン・センターでも、相談にのりますので、遠慮なく来てください。

Q)福岡の印象はどうですか?

A)福岡は、好いとう!ほれてしまいました(笑)。とても住みやすいし、緑もあるし、道が広くて、山もあるし、物価も親切、食べ物もおいしい。

Q)着任されたばかりのころ焼酎に挑戦したいとおっしゃっておられたと聞きました。

A)梅酒の方が好きです。けれども、この前小倉で、スモーキーな味の焼酎を味わいましたよ。

Q)最後に日本の女性にメッセージをお願いします。

A)女性に限らず、日本の「仕方がない」文化は、私にとって理解しがたいです。不満な気持ちを行動に生かして、いやな環境を変えようとしている、志を持っている人たちに会うと、とても印象に残ります。そういう強いチャレンジ精神のある人を応援したいですね。

(文・川口匡子、写真・井上まき)

※情報は2014.4.12時点のものです

マーガレット・G・マックロードさん

米国の外交官。2007年米国国務省入省。インド、パキスタン、ワシントンDCでの勤務を経て、福岡に。福岡アメリカン•センターでは、米国留学情報の提供などの広報業務を担当

福岡の好きなところは?
福岡市赤煉瓦文化館や鴻臚館。古い建築が大好き。旧福岡県公会堂貴賓館も美しい建築ですね。夜、ライブをしている演奏家もいるので、一人でも、ロマンチックな雰囲気です。鴻臚館も、万葉集をヒントに発掘されたなんて、すてきですね。アメリカ人として思うのは、日本の特徴は深い歴史。多くのアメリカ人は歴史的なものを大事にします。

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