無名の名山 椎葉村・馬口岳のちょっぴり哀しいエピソード

「無名の名山」というものがあるとすれば、この山のことかもしれません。

九州山地の奥の奥、宮崎県椎葉村にそびえる馬口(ばぐち)岳(1435m)に行ってきました。猟師や山作業の人しか行かない山に、本格的な旧登山道が出来たのはわずか15年前。いまだにそれほど登山客の多くないこの山は、素晴らしい新緑と花の季節を迎えていました。そして、ちょっぴり哀しいエピソードもこの山にはありました。

新緑のまぶしさと瑞々しさが堪能できました

新緑のまぶしさと瑞々しさが堪能できました

麓の川の口集落から林道を入って行った先に、旧登山道とは別に3年前造られた新登山道の登山口があります。きれいな水が流れる沢を渡り反対側の斜面から登りの開始です。

沢の水も冷たく透き通っていました

沢の水も冷たく透き通っていました

一帯の自然林は美しい新緑に覆われています。椎葉ダムの奥に位置しているため霧が多いのか、鮮やかな苔もたくさん生えていて、グリーン一色の世界をどんどん登っていきます。

コケや木々の緑のパノラマがここにあります

コケや木々の緑のパノラマがここにあります

やがてカエデなどの巨木が増え、木の根っこが縦横無尽に這う急斜面を登っていくとシャクナゲの群落が姿を現しました。薄く白に近い透明感あるピンクの花と鮮やかなつぼみが木々の間で艶やかに咲き誇ります。頭上の濃いピンクのコミツバツツジとの競演は頭がくらくらしそうなほどのあでやかさです。

山中の「幻の滝」が見通せる展望台まで来ると、今度はレモン色のヒカゲツツジが登場です。さらに登り、まるできれいに整備された花庭園のようなヒカゲツツジの群落が姿を見せると、みなそこで記念写真を撮って大はしゃぎです。

ヒカゲツツジ

当日は薄日も差し、視界もクリアで、途中眼下の川の口集落もはっきり見えたのですが、山頂に近づくにつれガスが出てきました。どうしても寄らなければならない場所は白い霧の中にありました。

バクチ石。素晴らしい景観を誇る大岩にたどり着くにはロープが張られた崖の岩場を超えていく必要があります。慎重に慎重に。やっと登った岩の上はあいにく展望が利きませんでしたが、高度感がありスリル満点です。岩の上には下から持ってきたと思われる花束が一束置いてありました。

花束の訳はこうです、麓の川の口集落出身で就職して福岡県に住んでいたある男性は、

ある日、がんに冒され自らの余命がそれほどないことを知りました。その後、男性はしばしば帰省するようになり、馬口岳に登っては、故郷の村の風景をバクチ石の上から眺めていたといいます。男性の死後、遺言で「川の口集落のために使って」と贈られた浄財を基に初めて登山道(旧登山道)が整備されたのが1999年のこと。その男性、右田貞行さんの名前が入った石柱も頂上に建てられました。

いわば右田さんによって地元の素晴らしさをあらためて知らされることになった集落の人は以来、この馬口岳に今まで以上に親しみを感じ、故郷の山として登山道の整備を含め大切にしてきたといいます。大岩の上にあった花束は、4月末の山開きで馬口岳に登った親戚の人が手向けたものでした。

素晴らしい花々とスリルにあふれたコースを堪能した後は、頂上で民泊の主人の方が丹精込めてつくってくれたおいしい昼ご飯をいただきました。

山頂で食べる心のこもったおにぎりセット。最高です!

山頂で食べる心のこもったおにぎりセット。最高です!

ミツバツツジの花に小鳥が!

ミツバツツジの花に小鳥が!

お腹を満たし今度は緩やかな尾根道の旧登山道を通り、整然と手入れされたヒノキ林を抜けて旧登山道の登山口へ。いつの間にかガスも晴れ、幾重にも連なる椎葉の山並みの展望が私たちを迎えてくれました。

視界が開け見えてきたのは雄々しい山々

視界が開け見えてきたのは雄大な山並み

それにしても、美しい花々の衣装と、心にしみるエピソードをまとった馬口岳は印象的な山でした。登った全員が、多くの人々の気持ちと労力がこもった、美しい登山道を歩けた幸せをかみしめました。期せずして、干支にちなんだ名前の山での思い出深い登山。また紅葉の時期に訪れてみたいと思いました。

 

※情報は2014.5.13時点のものです

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